「人生は短いです。何ごとも第一級のものだけに接するように心がけてください。師匠、先生(私淑も同じです)・・・芸術品・・・遊び・・・すべてです。」※1
小室直樹
小室直樹をご存じですか?
おそらく大学の学部時代に(文系の方は特に)、その専門科目の最初の入門書に、おススメされた方は多いのではないでしょうか?
京大、阪大院を経てフルブライト留学生として、ミシガン大、マサチューセッツ工科大学、ハーバード大学に学び、帰国後は東京大学院で学びました。
在野でしたが、自主ゼミを開催していて、そこの弟子には社会学者の橋爪大三郎や宮台真司など多数、これが本当の「小室ファミリー」。
著作も多く、特にソ連健在・冷戦真っただ中の1980年に書かれた『ソビエト帝国の崩壊』は、その解体を“予言”し、話題となりました。
とにかく学問の守備範囲がすごい。数学、経済学、社会学、心理学、宗教学、そして政治学。
で、そんな碩学、小室直樹大先生、とにかく本がわかりやすい!
あのねー、もう小室直樹の本でわからないんだったら、「君、諦めた方がええよー。」て、レベルでわかりやすい!
おそらく社会科学およびその隣接学問を何か勉強し始めようとしたら、小室直樹から入るのがベストだと思います。
基礎から応用まで教えてくれます。
特に○○原論とタイトルに入っている本は、その学問分野の原理論・入門書になっています。
ただ、小室直樹の本はとにかく多い!改題されたり、合本になったり、内容が重複してる本があったり・・・。
何から読んだらいいのかわからない!そんな方の為に、管理人が独断と偏見で選んだ6冊をご紹介します!
特に人文・社会科学系を学びたい方向けに選びました。
『数学嫌いな人のための数学~数学原論』
はい、皆さん大好きな数学のお話です。
学問の女王は誰でしょう?
正解は「哲学」と「数学」です(異論・反論すごそうですが・・・)。
数学と哲学の関係は密接で、古代ギリシアのアテナイ(現アテネ)にあったとされる哲学者プラトンの学園アカデメイアの門には「幾何学を学ばざる者、この門をくぐるべからず」と書かれていたそうです(おそらく後世の創作)。
そんな幾何学を含む数学。確かに、どの学問でもそれを使っている訳ですが・・・文系には苦手な方が多数いらっしゃるかと・・・。
逃げちゃだめだ!
この本は、数式が延々と書かれているものではありません。逆に具体的な事例・歴史的な出来事、宗教などから、数学の原理を説明してくれます。
過去の公式は全部忘れてても無問題!(多分・・・)
帰納法、十分条件、必要条件など、社会科学を論理的に理解するための方法論を提供してくれます。
★併せて読みたい↓
『日本人のための憲法原論』
表題に騙されるなかれ。「憲法」を冠していますが、その内容は、「憲法」をキーワードに、政治学、法学、社会学などを縦横無尽に語りつくす社会科学の天才小室直樹の真骨頂とも言うべき著作です。
社会科学諸学のいずれかを学ばれるのでしたら、隣接諸学を一緒に把握できる大変お得な本だと思います。
特に、政治学に関しての内容が多く、「政治学原論」と称してもおかしくない構成になっています(蛇足ですが、不思議なことに『政治学原論』は、とうとう書かれませんでした)。
特に、社会契約論(ホッブズ、ロック、ルソー)に関しては詳しく解説されています。三大市民革命のバックボーンですし、近代社会理解の鍵だからです。
★併せて読みたい↓
『国民のための戦争と平和の法』
人文・社会科学を学ぶ上での一大事のひとつが「戦争」です。
ですが、日本だと、軍事マニア向けの本になってしまったり、国際政治学の色が強くなってしまったり・・・。
そこで、本書の登場!元外交官の色摩力夫との共著です。
国際連合への幻想を払い、平和主義の陥穽を明らかにし、軍隊と警察の本質的差異、国際法の構造、など、「戦争と平和」に関しての論理と知識を提供してくれます。
日本の社会科学系の高等教育では、“なぜか”この辺の分野がするスルーされてしまうので、要チェックだと思います。
★併せて読みたい↓
『日本人のための経済原論』
経済解説本は多いですが、経済学の根本思想から説き起こしてくれるという有難い書は本書以外になかなかお目にかかりません。
元々、『小室直樹の資本主義原論』(1997年)と『日本人のための経済原論』(1998年)という別々の本があり、これを合本したのが本書です(2015年刊)。
近代「所有権」の重要性、キリスト教の予定説、伝統主義といった経済学を理解するために不可欠な概念・思想の解説もありますし、アダムス・スミス、マルクス、ケインズの経済理論も概観します。
更には官僚制(家産官僚制と依法官僚制)にまで話は及びます。
経済理論は難しいイメージがありますが、本書は体系的かつ隣接学問の解説も巻き込みながら、進んでいきます。
700ページほどありますが、飽きさせない工夫に満ちています。
例えば、「征夷大将軍から下賜された馬を曲芸に出したらどうなるのか?」なんて問いかけで、近代と前近代の「所有権」を論じてみたり(笑)。
『日本人のための宗教原論』
宗教、宗教学の理解無くして、人文・社会科学の理解は極めて難しいと思います。しかし、そこを網羅した適切な入門書は、あるようでない。
いや、あります!ここに!
キリスト教、仏教、イスラム教の基礎をこれでもか!と叩きこんでくれます。
特に、難解な哲学理論である仏教に関しては白眉で、「空(くう)」に関して、明解に解説してくれます。
全ての学徒必読の書!
★併せて読みたい↓
『小室直樹の中国原論』
上記5冊のような○○学の原論という訳ではありませんが、いまや米国と並び世界の雄たらんとする中国を理解するための書を1冊入れておきます。
中国人や中国の行動湯式・思考法を知るために、小室は「幇」(ほう)と「宗族」(そうぞく)を手掛かりにします。
また、ほう中国特有の「法」と「歴史」にも説明は及びます。
すっかり西洋近代の価値観・認識に染まった(?)日本人には目から鱗の中国論かと思います。
小室は、本書の様な、いわゆる「共同体論」を、80年代を中心に、いくつか執筆しています。冒頭のソ連や米国、アラブ、韓国等。こちらもご興味があれば是非。
入門書の神!
如何だったでしょうか。
ここでは紹介しきれない良書が他にも多数あります。
学部1~2年生など、初学者は、小室直樹の多読で基礎体力をつけて、各々の専攻分野の古典や専門書に進むのが良いと思います。
ただ、とにかく重複(改題等)が多いのが難ではありますが・・・。
【注釈】
※1.村上篤直『評伝小室直樹』(下)ミネルヴァ書房、2018年、569頁。早稲田大学での講演会で配布されたパンフレットのQ&A。「学生への一言」。