アメリカの警察をテレビの画面を通じて目にする事は、とても多いですよね。米国内の暴動・騒乱や凶悪事件のニュース映像から、サスペンス映画や刑事ドラマまで。
でも、それらを聞いたり見ていたりすると、日本人の「警察」のイメージと大きく違っていて、困惑したり疑問に思うこともあります。
今回は、そんなアメリカ合衆国の警察に関してのお話です。
「州=都道府県」ではない
まず、根本的なところから。
米国の州を、多くの日本人は、都道府県と同じものだと見ていますが、これが最初の躓き。
全然違うものです。
米国の各州は、ひとつずつの国、それぞれ国家です。つまり、全米50州は50の国です。
そして、その50の国が、「連邦」を形成(連合)して、「アメリカ合衆国」という連邦国家を形成しているのです。
なので、ワシントンDCのアメリカ合衆国政府を「連邦政府」と呼ぶわけです。
合衆国憲法は一部の権限を連邦政府に移譲(委任)しているだけで、州がそれ以外の権限を留保しています。
この州と連邦の力関係、パワーバランスをどうするかで、長年、フェデラリスト(連邦主義)とアンチ・フェデラリスト(反連邦主義、州権主義)という対立軸すらあります。
ここまで見ると、日本の都道府県とは意味合いが全く違うことが認識できると思います。
日本の都道府県は、広域自治体ではありますが、国家ではありませんし、国が分けた行政区画みたいなものです(トップダウン)。対して、米国は州が基本でそこから連邦(合衆国)を作った(ボトムアップ)わけです。
- トップダウン【日本】日本国→都道府県
- ボトムアップ【米国】州→連邦政府(合衆国)
この辺りは、政治思想的な国家観の違い(一元的国家論vs.多元的国家論)にもなってきますので、ご興味のある方は、こちらの記事をどうぞ
→堀新『13歳からの天皇制』読後雑感~せめぎ合う二つの国家観~
さて、従いまして、州には連邦政府に委任されていない(留保されている)権限がたくさんある訳で、その中に「警察権」があります。
ここまでお話しすると、「州に警察権が留保されているなら州警察が警察業務を全部やっているんでしょ?」と、結論されそうですが、そう単純にはいかない。
州の下には郡(ロスアンゼルス郡など)があり、その下に自治体(「通常自治体」と「タウン/タウンシップ」)が無数にあります。この辺りの制度は、それこそ州ごとにバラバラで、ざっくりとした説明になってしまいますが、押さえておきたいのは、日本のように、画一的な制度で統一されていないという点です。
更には、自治体は住民の総意によってはじめて設立される法人です(だから逆に住民投票で解散することもある)。
日本的には、市町村を作ったり、解散したりという発想がありません。日本の場合、基礎自治体である市町村も「自治」の名を冠していますが、あくまで所与のもの、行政区画のイメージが強い。
ところが、米国の場合、自治体が住民によって作られていない「非法人地域(非自治体地域)」が多大な面積を占めています(非法人地域の警察業務は、州の出先たる郡保安官等が担う)。
つまり、米国憲法・各州憲法に反しない限りは、あらゆる団体・人民が高度な自治を行える「原則自由」ということになります。
なお、日本の都道府県に相当するのは、この「郡」になります。この郡の「郡保安官」も一般的に選挙で選ばれる公選制です。日本の都道府県警察本部長を選挙で県民が選んでいるようなものです。
警察組織は15000以上
先ほど、米国はボトムアップ方式だと説明しました。故に様々な自治体・行政の単位が、自発的に警察(米国風に言えば法執行機関)を設置することが出来るということです。
なので、すぐに思いつく、州警察、郡保安官、市警察などは序の口で、映画でお馴染みハイウエイパトロールやテキサス・レンジャー。湾港警察や鉄道警察、公園警察、果ては博物館警察、大学警察、動物警察(!)まで(以下省略)。
民間団体が限定的な警察権の付与を与えられている場合もあるにしろ、様々な団体・法人格の警察組織が存在し、一説には全米に15000以上の警察が存在するという※1。
これら数多の警察は全く独立した個々の機関なので、装備(パトカー等)も制服も統一されておらず、各々独自のものを採用しています。
日本だと、全国どこへ行っても、警察は同じ制服、同じ白黒のパトカーですよね。
緊急通報番号911番(日本の110番と119番を合同したもの)すらも、90年代以前は、統一されていませんでした。
また、連邦政府各機関の法執行機関も多彩を極め、お馴染みFBI(連邦捜査局)や連邦保安官をはじめ、憲兵隊、シークレットサービス、ATF(アルコール・火器・タバコ取締局)、郵政監察局、連邦議会警察・・・etc.
100を超える連邦レベルの法執行機関が存在するようです。
なぜ、このようなことになるかというと、第一に、先ほどから繰り返しているように、あくまで「自治」であること。
そして第二点は、「必要こそが権力」。つまり、その問題の必要に応じて、その機能の権力装置を、その都度作るということ。
これと対極にあるのが、最初から全てを包括する権力機関をトップダウンで作るという発想で、大陸系の国家(日本も含む)の「内務省」が典型的です。
米国にも内務省はありますが、“その他なんでも省”的な性格で、大陸系国家のそれとは違った政府機関です。
このような背景から、日本人からすれば、一見「乱立」した権力機構(警察機構)が誕生した訳です。
【後編に続く】
→アメリカの警察が知りたい~【後編】 ~米国警察を知る秘訣は日本の消防制度?