「人間は政治的動物である。」
アリストテレス『政治学』
「政治学を勉強したい!」て方は多いと思いますが(いや、あんまいないだろ・・・)。
最初に何を読んだらいいの?とお困りの方のために、管理人が独断と偏見で選んだ5冊をご紹介します!
あ、ちなみに、この本、「政治を勉強したい!」ではなく「政治学を勉強したい!」人向けに、ご紹介していますので、お気を付けください。
特に、向学心に燃える政治学科1年生におススメです。
(但し、意図的に教科書的な本は除外しています)
小室直樹『痛快!憲法学』集英社インターナショナル、2001年
はい、最初からツッコミどころ満載ですね。
「俺は政治学を勉強したいと言ったんだぞ(怒)」というお声が聞こえてきます。
更に本の表紙は、江口寿史さん画の可愛い女の子三人組。
ページを開けば、『北斗の拳』が挿絵になっている・・・・。
待って!石を投げないで!
ちょっと、あなた、小室直樹を知ってるんですか?
は?小室哲哉?ぶっ飛ばすぞ!
あ、ごめんなさい、石は投げないで。
「汝らの中、罪なき者、まず石を投げうて」(ヨハネ伝)て知らんのか!
えーと、一言で言いますと、社会科学の天才ですね。
京大、阪大院を経てフルブライト留学生として、ミシガン大、マサチューセッツ工科大学、ハーバード大学、帰国後は東京大学院。
在野でしたが、自主ゼミを開催していて、そこの弟子には社会学者の橋爪大三郎や宮台真司など多数、これが本当の「小室ファミリー」。
とにかく学問の守備範囲がすごい。数学、経済学、社会学、心理学、そして政治学。
で、そんな小室直樹大先生、とにかく本がわかりやすい!
あのねー、もう小室直樹の本でわからないんだったら、君、諦めた方がええよー。て、レベルでわかりやすい!
さて、本書は「憲法学」の名は冠していますが、実際は大学学部の「政治学原論」で扱う内容に近いものになっている。
憲法の話から、法律とは何か?さらに、憲法と民主主義の話になり、民主主義の来歴を明らかにする。
その過程で、古代ギリシア・ローマ、中世の思想や英国憲政史、社会契約論などの政治思想史を一挙に解説していく。
さらには、経済理論や日本憲政史にまで及ぶ。
話が、あちこちに飛ぶが、本当に面白く、何よりわかりやすい!
一番最初に、政治学を学びたいなら、この1冊から始めよう!
あ、ちなみに、この本は、現在、以下の愛蔵版として再販されていますのでお買い求めはこちらを。
小室直樹『日本人のための憲法原論』集英社インターナショナル、2006年
ちなみに、小室直樹に関しては、こちらの記事も併せてどうぞ↓
丸山真男『現代政治の思想と行動』未来社
はい、打って変わって、こちらは政治学徒のバイブルみたいな本のご紹介です。
日本で政治学を勉強したら、嫌でも名前を耳にする大御所中の大御所。
そう、丸山真男のご紹介です。
丸山は、ほとんど伝説的な人物になっていて、やれ、戦後民主主義の理論的指導者だ、やれ、丸山政治学だ、などと言われています。
高校の教科書の中にも、岩波新書の『日本の思想』は、よく紹介されているようで。
管理人的には、『日本の思想』よりも『現代政治の思想と行動』の方が読み易い気がしますね。
三部構成になっていまして、読む順番なんですが、初学者は、第三部「「政治的なるもの」とその限界」から読まれたほうが宜しいかと。
ここは政治学原論的な小論が多数あるので通読をお勧めします。
次に第一部「現代日本の政治の精神状況」。ここでは、戦時下日本の諸問題の分析が主になっています。
ここで、必ず読んでいただきたいのは「超国家主義の論理と心理」です。
これは、丸山真男を一躍、論壇の中心に据えたと言っても過言ではない、記念碑的論文ですし、政治学科の講義では、度々言及される作品ですので、要チェック!
最後に第二部「イデオロギーの政治学」。
うーん、これは、共産主義の問題などを扱っていて、正直、初学者の方は、最初は読まなくてもいいかな?と思います。
丸山真男『政治の世界』岩波文庫、2014年
続きまして、丸山真男をもう1冊。
「なんか丸山ばかりだな・・・。偏ってねえ?」
と思っているそこのあなた!左右とかの批判は一通り読んでからでよろしい!
大事なのは、基本文献や古典を抑えることです。
若干、前述の『現代政治の思想と行動』に収録内容が重複するのですが、こちらも勉強になる小論が多数あります。
特に、政治学初学者、例えば政治学科1年生みたいな方には「政治学」(275頁~)という小論をお勧めします。
大学教授のおじさん(丸山自身)が、訪ねてきた政治学を学ぶ甥と姪と、政治学を巡って対話するという一風変わった小論(対話篇)になっています。
大学における政治学研究の話や、近代政治学の背景などが語られます。
また、「政治の世界」(69頁~)と題する小論は、「政治」ないしは「政治的なるもの」の本質を活写した、政治学徒必読の小論です。
岩田温『逆説の政治哲学』ベスト新書、2011年
政治学には大きく分けて、2つの分野があります。「政治哲学」と「政治科学」です。
管理人は、「政治学を勉強したい!」人向けに今回書いているので、まずは前者に分類される本を扱うことにします。
政治科学が実際の政府や政治行動、国際関係などの現象面・実証研究を扱うのに対して、政治哲学は、その「政治」のそもそもの原理・モデル、思想的背景、土台、または倫理・規範を明らかにするものなので、政治科学に進むとしても、押さえておく必要がある大前提の知識です。
さて、そんな政治哲学は哲学と表裏一体の関係にありまして、やや乱暴に言いますと、大体の哲学者は政治哲学者(政治思想家)でもあります。
そんな哲学者・思想家たちが、「政治」とは何か?また、政治学の諸概念をどう考えていたかを概観してくれるのが本書です。
登場するのは、おなじみのマキャベリやホッブズ、なぜか今人気のアレントからアインランドやパステルナークなどなど結構幅が広い。
扱う概念も、エリートと大衆、保守と革新、ネイションステイト、権威と権力、民主主義と全体主義、イデオロギー、戦争、自由、正義、社会契約etc.
と、政治学原論や政治学入門の講義要綱みたいになっています。
どの項も簡潔で、初学者でもわかりやすい本です。
なお、一応、本書の著者は政治思想的に保守主義の立場を取っています。
先述の丸山はリベラル・革新の立場です。政治学、わけても政治哲学・政治思想になってくると、どうしても、著書の思想的立場は内容に影響するので、そこは皆さんが差し引いてください
(かくいう私の立場は政治的には保守主義のリアリズム、哲学的には実在論のプラトン主義と明示しておきます)。
さてさて、本書を読んで政治思想を更に詳しく勉強したいと思った方には、以下の3冊をご紹介しておきます。
福田歓一『政治学史』東京大学出版会
丸山真男の弟弟子にあたる東京大学法学部教授の大著です。
東大法学部の講義『政治学史』を本にまとめたものです。
ギリシア・ローマの古典古代から近代に至る主要な政治思想・政治理論を百科全書的に網羅しています。
500ページを超える大著ですが、通読すれば、近代政治学までの流れをよくつかむことができるでしょう。
「でも、政治思想に進まないからなあ・・・」「ちょっと読む時間が・・・」という方は、こちらの本が、コンパクトにまとまっていて、おススメです↓
宇野重規『民主主義とは何か』講談社現代新書
政治学を勉強する上で、欠かすことが出来ないのが、「民主主義(デモクラシー)」の理解です。
それを体系的に分かりやすく概説してくれるのが本書です。詳しくは、以下の記事をご覧ください。
→宇野重規『民主主義とは何か』読後雑感~改めて「政治学」の王道を問う
シェルドン・ウォーリン『政治とヴィジョン』福村出版
福田歓一や宇野重規の本を読んで、興味が湧いてきた方は、政治学の中でも「政治思想」の方向に進まれると良いのではないのでしょうか?
そんな貴方にオススメなのがこちら!
シェルドン・ウォーリンの『政治とヴィジョン』
(すみません、全然、初学者向けではありません・・・)
著者は米国の政治学者です。プリンストン大学教授。日本のICU(国際基督教大)の客員教授も務めました。
間違いなく現代政治哲学における名著でしょう。
なかなかの大著ですが、政治思想プロパーに進まれるなら是非!
プラトン『国家』(上・下)岩波文庫
最後に、古典中の古典を。
おそらく、ソクラテスやアリストテレスと共に名前だけは知っている方は多いだろう古代ギリシアの大哲学者です。いまから2400年前くらいの人ですね。
大体、どの大学の政治思想史、政治理論史の講義でも、出発点はプラトンです。
「学」としての政治学の始まりは弟子のアリストテレスかもしれませんが、政治学を最初から語るとすれば、間違いなくプラトンであり、その主著『国家(ポリティア)』です。
管理人がこの本をお勧めするには理由があります。
まず、なんせ読み易い!だって、内容は対話篇なんだから。
つまり小説みたいなもんです。おまけに美文!
ソクラテスを主人公に何人かの友人や弟子たちが、様々な問題を議論し合う。
専門用語は一切ありません。その辺の日常の言葉で、徹底的に語り合います。
なので、特別の知識が無くても読めます。これが他の古典やら専門書と決定的に違うところ。
日本語さえできれば小学生でも普通に読めます。
但し、読み易いが、そこで語られる問題は非常に深遠です。
正義とは何か?
国家とは何か?国家の原因とは?
理想国家とは何か?
真の幸福と不幸とは?
哲学とはなにか?哲学者とは誰か?
ぱっと思い浮かぶだけで、こんな感じ。
おまけに未来(つまり我々現代)に出てくる、男女同権や社会契約論、共産主義とかが議論の中で語られて、「本当に2400年前の本?」と冷や汗が出ます。
「西洋哲学はプラトンの脚注である」(ホワイトヘッド)という言葉がありますが、政治学も(というより、古代では哲学と政治学は不可分でしたが)、この後、プラトン哲学に大なり小なり、良くも悪くも影響を受けます。
そういう意味でも、プラトンは一読を勧める次第です。
岩波文庫版で上下合わせて、800ページはある大著ですが、あら不思議、プラトンの驚くべき詩的センスと、翻訳者の名訳で、あっという間にその世界に引き込まれてしまうの必至です!
また、この『国家』を含む、プラトン哲学のコンパクトかつ最上の案内書として、こちらも、おススメします↓
ただ、プラトンの対話篇は、是非、対話篇自体を、まずは読んでいただきたい。真っ白、予備知識なしの白紙で読まれることを、強くお奨めします。なので、こちらの『プラトンの哲学』は、『国家』読後にお読み下さい。
パンドラの箱に希望は残っているのか
いかがだったでしょうか?
独断と偏見で5冊(+α)を紹介させていただきました。
「政治哲学・政治思想の本ばっかじゃね?」と思われた方もいるかもしれません。これは先ほども言いましたが、政治科学(行政学や政治過程論、国際政治学etc.)を学ぶとしても、基礎・土台である原理論は必要です。基礎なしで臨床医学は成立しないでしょう。
また、冒頭にも書きましたが、今回は教科書的な文献は意図的に外しています。
さてさて、政治学を学ぶというのは、一種、パンドラの箱みたいなものだな、と思っております。
政治にまつわる歴史は、あまり気持ちいいものではなく、悲観的にならざるをえない。
そこに希望を探そうとするのが、学問たる政治学の存在価値かな?
と愚考しております。
そんな修羅の道へようこそ、同郷の方々よ!