『WORLD WAR Z(ワールド・ウォー・Z)』マックス・ブルックス  第三次大戦の敵は人間に非ず・・・

zombie

【マックス・ブルックス 2010年】

あらすじ

中国奥地、三峡ダム湖畔で少年が「何か」に噛まれた・・・。

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それは、死者が蘇り生者に襲いいかかるという恐るべき疫病の始まりだった!

中国から、ユーラシア全土へ。大洋を渡り、五大陸全域でアウトブレイクし、死者の群れが世界を覆っていく。

本書はこの「ゾンビ世界大戦」の記録である。

ゾンビと全人類の全面戦争

そう!「Z」とは「ゾンビ」、即ち本作品はゾンビ世界大戦(第一次ゾンビ戦争)を、「ある視点」から描いたインタビュー集の体裁をとっている。

ある視点とは、ゾンビ世界大戦終結から十年後の国連の戦後調査官のこと。

人類は辛くもゾンビとの戦争に勝利し、その歴史的調査が開始されており、本書は調査官が戦時中のあらゆる国のあらゆる立場の人々の証言を聞きまわった短編集という構成。

この「あらゆる」というのが、米国副大統領や閣僚から、米軍の将軍や一兵卒、中国の軍医や戦略原子力潜水艦の艦長、ドイツ将校やインド兵、ロシア兵、はたまた英国貴族などの政府側だけにとどまらず、主婦、傭兵、映画人、宇宙飛行士、実業家、ペテン師・・・果ては日本のオタク少年まで(!)。

ここまで役者を揃えた時点で脱帽!

これが真の「珠玉の短編集」!

はっきり言おう、傑作である。

本書は各人へのインタビューによって、アウトブレイクから封じ込めとその失敗、防戦(後退戦)から反撃、奪還までを描いている。

どの話もその国際関係・社会的背景を丁寧に描き、現実に起こりうるシミュレーションとして、また人々の悲喜劇を活写している。

ここで、管理人の独断と偏見で選んだ作内短編ベスト4!

マジノ線(アメリカ合衆国ヨンカーズ)

defense line

ニューヨーク北部の街ヨンカーズには、アメリカ陸軍の大部隊が集結していた。

既にニューヨークは大混乱に陥っていた。

政府がその威信を、なにより秩序を取り戻すのには、国民に「誰が支配者か?」と誇示する必要があった。

その日、そこにはそれを実行するのに十分な物量が揃えられていた。完全武装でハイテク機器を装備した歩兵、戦車、装甲車、MLRS、攻撃ヘリ・・・。やがて、ゾンビの大群が姿を現した。

誰が信じよう、その日が、アメリカ軍にとってのカンネーやアルデンヌになろうとは・・・。

「戦争で最も危険なことは、敵を侮り、自分を過信することである」ウラジミール・レーニン

人類が生き残るには・・・。(南アフリカ)

top secret

ポール・レデカー。アパルトヘイト時の白人政権の戦略家。

南アフリカでもっとも憎悪される人物。

ゾンビパンデミックの中、ひっそり暮らす彼の家を特殊部隊が急襲した。

指揮官は言った「プランはあるんだろ?」。

彼は有無を言わさず、ヘリで地下基地に運ばれた。そこで政府首脳と共に待っていたのは・・・。

この章は、「ある人物」とレデカーにおきた出来事が強く印象に残るし、また最後の一節に唸ります。

シーザーは必要だが・・・(アメリカ合衆国)

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ハワイ・ホノルル。ワシントンD.Cを放棄したアメリカ政府首脳部は、エアフォースツーで新大統領(つまり前副大統領)の就任宣誓を済ませたばかりだった。

事態は急を要していた。まさに国家存亡の時。首脳陣は非常大権の行使を提案。

米本土はロッキー山脈以東全土が戦場になり西海岸もハワイも混乱の極みにあった。誰もが賛同したが、新大統領の答えは意外なものだった。

軍事革命(アメリカ合衆国ニューメキシコ州ホープ)

defense line

反抗作戦がはじまった。ここが転換点だった。

しかし、そこには戦車も装甲車もいない。いるのは南北戦争さながらの歩兵の隊列と犬だった・・・。

国際政治とゾンビの幸せな関係

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本書では、よくあるゾンビ作品のように政治が脇役に追いやられていない。

テレビのニュースが伝える非常事態宣言やホワイトハウスの会見、噛ませ犬役の警官隊や軍隊・・・。

物語の演出上の端役でしか政治は登場しなかった。

ところが、本書はそのまま政治をメインテーマに持ってきて、「実際にゾンビが現れたら政府はどう対応し、国際政治はどう動くのか?」を真正面から描いている。

そしてその対応は燦燦たる状況だ。イスラエルを除いて、初期の封じ込めに失敗し、各国は大混乱と死者の急増に見舞われる。

作中、CIA長官が以下のように言う。

「ある日、中国共産党員が一方の手に立ち退き通知書、もう一方の手に火炎瓶をもって玄関先にあらわれたら、たとえ歩く死体がうしろで彼らの背後でうろちょろとしていようが、そいつを目で追うなどもってのほかだ。」

国際社会が、ゾンビを認知した時、それは手遅れになっていた。

これはちょうど、9.11同時多発テロのように脅威評価を誤ったということ。

ただ一国、イスラエルだけがゾンビを最高の脅威と評価し、「自発的隔離政策」を実施します(それが原因で内乱も発生するが)。

さて、政治の最後の手段は、言うまでなく軍事力。

世界最強を誇る米軍が、戦略的失敗からゾンビに敗退するのは見どころ。

ヨンカーズの戦い。ハイテク兵器信仰が仇になりゾンビに敗退。

これは、大なり小なり、各国が経験することになる。

つまり従来の用兵思想が通じない敵に人類は遭遇する。

辛うじて、ロッキー山脈に防衛線を築いて西海岸を死守するにとどまる。

まあ、転んでもタダで起きないのがアメリカで、この後の反撃の為の軍事戦略的転換(用兵思想の変更)することになる。F22もF35も不要、必要なのは・・・。

また、前述したポール・レデカー。

「レデカー・プラン」として後に各国が追従することになる対ゾンビ戦略。

国民全員を助ける術が失われた以上、最大多数を最小の犠牲で救うしかない。

政治的合理主義の極みとして策定される。

各国の為政者は、その非情な決断を迫られることになる。政治は詰まるところカルネアデスの板だと思い知らされる。

さて、本書の最後、このゾンビ大戦の「ほんとうの敗者」について語られる場面がある。

それはなんだろうか?

「人間の実存」?「死に対しての敬意」?

いや、違う。

ぜひ、ご自身で読んでみてほしい。

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え?実写映画についてはどうかって?

・・・それはノーコメントで(笑)