米軍の対ゾンビ作戦計画~机上の空論は空論に非ず

Top secret

「真の将軍は、危険に際して有り得そうなことだけでなく、あり得ないことも勘案するものである。」

マウリキオス『ストラテギコン』

「非常事態計画8888-11(CONPLAN8888-11)」

2011年にCNNが、アメリカ戦略軍が作成していた計画「非常事態計画8888-11(CONPLAN8888-11)」を入手し、話題(?)になりました。

戦略軍とはアメリカ合衆国軍の中の機能別統合軍のひとつです。アメリカ軍は陸海空軍の垣根を越えて、軍令(軍事行動上の指揮命令)上、地域統合軍(北方、南方、中央、欧州、アフリカ、インド太平洋の6個軍)と機能別統合軍(特殊戦、輸送、宇宙、サイバー、戦略の5個軍)に分割しています。まあ、なんせ、兵力150万人ですから・・・。

その内、戦略軍は、陸海空の核戦略を担当しています(2011年当時はサイバー戦と宇宙戦力も)。

さて、その戦略軍が内部で計画していたのが、このCONPLAN8888-11です。

そして、その内容は、「ゾンビ」の発生、パンデミックに対する軍事作戦です。

・・・SFの話ではありません。本当の話ですし、冗談でもありません。

大真面目にゾンビの発生と、その予防(拡大阻止)、制圧作戦など、現役の軍人らによって細かく策定されています。

日本だと、「税金使って遊んでいるのか!」と納税者から批判が起きそうですが、対ゾンビ作戦計画には真っ当な理由があります。

脅威や危機というのは、何が起こるかわからないので、最大限の備えをする必要があります。

特に頭の中では。頭のトレーニングです。

どんな現実離れしていようと、それを、事前にシミュレーションしていると、していないのでは、「何か」が発生した時に、その対応に雲泥の差が生じます。いざ直面した時に選択や思考の幅に差が生じますから。軍隊とは「最大限備える」。

陸上自衛隊の演習なんかもそうですね。日本本土で戦車を伴う本格的な師団単位の侵攻軍と正面から戦うシナリオでの訓練。現実の国際情勢から考えたらあり得ませんが、この「最大限備える」という観点から行われます。

米軍の作戦計画は、対北朝鮮、対イラン、対ロシア、対中国といった潜在的仮想敵国だけではありません。英国やカナダ、フランス、ドイツといった友好国とも「もしも」の時の戦争計画があります。無論、日本も(今回の対ゾンビ計画よりも“生々しい”ですから門外不出、極秘事項でしょうが)。

さて、米国がゾンビだと、日本では、ゴジラでいいでしょう。

昔、テレビのゴジラ特集の番組で、「ゴジラが現れたらどうするか?」を、陸幕に聞きに行く(!)、というコーナーがあって、その時に、担当者は対戦車ヘリを、ビル群を遮蔽物にしながら反復攻撃する案を話していた記憶があります。

例えば、阿曽カルデラの破局噴火のシナリオ(本州以南は壊滅!死者1億人!)を検討していれば、東日本大震災クラス、またはそれを超えて南海トラフ巨大地震の対処の幅が変わってくるはずです。

ゾンビ国際政治学

そんな大真面目にゾンビを扱っているのは、何も、米軍だけではありません。

政治学、国際政治学においても大真面目にゾンビをテーマにしている本があるんです。

それがこちら!

国際政治学者が「ゾンビ」を国際政治学の文脈で考えている本です。

リアリズム、リベラリズム、ネオコン、構成主義などの国際政治理論や、社会心理学的な反応や官僚制の問題まで。

リアリズムの章では、こんな事が言われている。

人肉喰らいの食屍鬼の登場は、国際政治にどのような影響を与えるのだろうか。リアリスト の解答は、驚くべきものではあるが、いたってシンプルである。すなわち、そこでの国際関係 には、何らの変化もないというのだ。このパラダイムは、人類に対する新たな実存的脅威が 人間の行動に対して何らかの劇的な変化をもたらすと主張するような人々にとっては、どちらかというと感銘を与えないものであろう。

D・ドレズナー『ゾンビ襲来』白水社、2012年、58-59頁。

これは、とても共感できる。脅威の度合いと対処法が違えど、「危険な隣国」もゾンビも政府・軍部・外交当局にとっては同じという訳です。

官僚制が上手くゾンビ禍に対処できないであろう事も指摘されています。それは、標準化された手続きの処理を基本とする「官僚制」が持つ、本質的な宿命とでもいえます。

これは強力な官僚機構を持つ我らが日本国にとっては切実な問題でしょう(いや、ほんとにマジで・・・)。

政治や軍事といったものが好きだけど、ゾンビ作品に全然活かされていないなあ・・・、と日頃思っている方には必読の書です!

一番共感し笑えたのが、ここです。

バイオハザード・シリーズに出てくるアンブレラ社は、ゾンビの基本原則の中でも抜きん出た企業の無能さを晒している。この多国籍企業の政治力が明白なものである一方で、その組織 としての能力は非常に疑わしい。

同書、125頁。

仰る通り!

『対ゾンビ版:民間防衛』

『民間防衛』という本をご存じですか?

スイス政府(連邦法務警察省)が発行して、スイス国民に配布した冊子。

そこには、外国からの侵略に対して、どう国民が対処すべきかが書かれています。

日本でも、災害の後などに話題に上ることの多い本書ですが、配布されたのは、1969年のお話です。また、スイス国内からも、批判もあった本です。

これに若いころに感銘を受けて、都知事就任後に東京都民に防災マニュアルを無料配布したのが当時の舛添要一東京都知事。

さて、そんな『民間防衛』。

さすがに、そこに「ゾンビ」の項目はありません。これは困った・・・(なにが?)

しかし、ご安心ください!あるんです!

『対ゾンビ版:民間防衛』とでも言えるものが!

それがこちら!

大真面目に、ゾンビパンデミックの際に、個人がどう生き残ればいいのか?を解説してくれているサバイバルガイドです。

どう逃げる?

どう生き残る?

どう戦う?

を、懇切丁寧に教えてくれます。

例えば、避難場所に関して。

軍事施設が推奨されます。

それは、最後に頼りになるのは人間だからで。

だが最も重要なのは物理的な要塞ではなく、そこにいる人間たちの能力だ。以前述べたとおり、十分な訓練を受け、しっかりと武装し、規律に従う人間たちこそが最高の防御壁なのである。

マイケル・ブルックス『ゾンビサバイバルガイド』エンターブレイン、2013年、134頁。

逆に、ド定番のショッピングモールはNG。

ゾンビ以上の「敵」になるのも同じ「人間」だからです(暴動、略奪etc.)

さて、本作には、ゾンビが過去、人類にどのように脅威になってきたかの記録(!)が、紀元前6000年(!!)から2002年まで記録されています。

つまり、ショートショートのようなゾンビとの戦いが描かれています。どれも1ページ程度の短編ですが、どれも短編小説になりそうな興味深いものばかりです。

うん?小説?短編集?・・・。

ゾンビ世界大戦

そう!ここまで、ゾンビの話をしてきたのは、この小説をご紹介する為!

前章の『ゾンビサバイバルガイド』の著者、渾身の長編SF傑作小説。

国際政治、軍事の豊富な知識を背景に、ゾンビパンデミック(本作では「ゾンビ世界大戦=ワールドウォーZ」と称される)を描きます。

人類は、ゾンビとの世界大戦にどう戦い、どう勝利したのか?

国連の担当官が、戦後に聞き取ったインタビュー集の形を取っています。

米国副大統領から、企業家、将軍から一兵士、主婦まで、様々な人々が登場します。 詳しくはこちらの記事をご覧ください↓