NHK「エマージェンシーコール 〜緊急通報指令室『埼玉』」~1分1秒でも速く現場へ【感想・雑感・解説】

2022年1月から不定期で放送されているNHKのドキュメンタリー「エマージェンシーコール 〜緊急通報指令室〜」の最新作・第三弾が、2022年12月5日に放送されました。

このドキュメンタリーは、119番通報を受理(訴えを受付すること)する消防の通信指令室に密着し、実際の通報と消防官のやりとりを淡々と追った、極めて禁欲的なドキュメンタリーです。

第1回は横浜市消防局、第2回は東京消防庁の119番受理台に密着していましたが、第3回となる今回は、さいたま市消防局と、シリーズ初となる110番受理台、つまり警察(埼玉県警察本部通信指令本部)を取り上げています。

  1. 第1回記事:『横浜』~壮絶すぎる119番通報の最前線
  2. 第2回記事:『東京』~「公助」と「甘え」の狭間で

見逃した方へ

NHKの動画配信サービス「NHKプラス」では、放送後一週間、見逃し配信を行っています。

但し、NHK受信契約が必要なサービスです。

(※「NHKオンデマンド」とは別の配信サービスですので、混同しないようにご注意ください)

また、NHK総合(地上波)でも再放送される場合もあります。

【NHKプラス配信情報】

  • 「東京」:2022年12月10日(土)午前9時30分まで
  • 「横浜」:2022年12月11日(日)午前3時54分まで
  • 「埼玉」:2022年12月12日(月) 午後10時45 分まで

【NHK総合】

  • 「東京」:2023年10月7日(土)午後4時25分~

「大丈夫です」のその裏に

緊急通報の現場で、日常的なのが、「やっぱり、大丈夫でした」「大丈夫みたいなので、すみませんでした」という、途中で通報をやめようとする通報者のケースです。

番組中でもありました。

人間は、「平常性バイアス」というものを持っているので、危機的な状態に陥っても、心のどこかで、「いや、これは危機じゃない」と自分に言い聞かせようとします。

一方で、危機を知らせる直感や理性が働いているので、その葛藤の中で緊急通報している訳です。

その葛藤が、前者に傾くのを、何とか踏みとどまらせて、通報内容を把握しようとする警察・消防のオペレーターの姿がありました。

警察はあらゆる「問題」の入り口

警察には、あらゆる問題が持ち込まれます。

番組中には、母親の育児放棄から、子どもがSOSを通報してくるものもありました。

本来は、児童相談所や自治体の範疇ですが、それが一刻を争うのであれば、警察に緊急通報が入ります。

それを、他の諸機関に遅滞なく、漏れなくバトンしていくことも警察に求められるわけです。

不適切通報

この番組は、第1回から話題になり、抜け目ない民放でも、同じような番組を、最近はよく目にします。

この番組の最大の利点・効果は、「不適切通報」を減らすことでしょう。

番組中でも、「トイレットペーパーの買い物を頼む」みたいなのがありましたが、第1回の放送の不適切通報は、もっと酷かった。

警察も消防も、リソース(人員・装備)に限界があるので、不適切通報によって、それらが割かれれば、本当の緊急事態への対応は遅れる訳です。

現在、警察官のレスポンスタイム(110番通報受理から最初の警察官の現場到着までの時間)は、全国的に、およそ10分前後といわれます(東京23区で7分前後)。

110番受理台が通報内容を聴収していると同時に、その後ろの無線指令台では別の警察官が、その状況をモニターしながら、警察署や交番、パトカーなどに出動指令を手配しています。

通信指令本部のオペレーターは、レスポンスタイムを1分1秒でも早くしようと必死な訳です。

「1分早く到着していれば助かった命が・・・」ということが、実際に起きる現場だからです。

この番組が、その努力に少しでも繋がればと、願ってやみません。

ちなみに、不適切通報ではありませんが、お礼の電話を119番にするのは止めましょう(笑)

緊急通報以外の相談窓口に関しては、下記の公的機関のサイトを参考にしてみてください。緊急通報窓口の負荷を減らす取り組みです。

さいたま市消防局の活動を知る本

今回、舞台となった、さいたま市消防局の活躍がわかりやすく紹介されている本があります。

鎌田歩『しゅつどう!しょうぼうたい』(金の星社)

舞台は、さいたま市消防局と同居する浦和消防署(そう明示されていませんが、作中の建物の形が実在のそれと同じです)

児童書・絵本に分類されますが、丁寧な解説・描写で、消防署の一日と、火災・救助での活動が描かれており、子供から大人まで、その活動をよく理解することができます。

警察と消防の違いとは?

警察と消防の大きな違いの一つに、その設置主体(設置単位)の違いがあります。

警察は皆さんご存じのように、都道府県単位で存在しています(青森県警察や大阪府警察etc.)。

ところが、消防は、多種多様です。

札幌市消防局、久慈広域連合消防本部、埼玉東部消防組合消防局、高槻市消防本部etc.

これはどういうことかというと、消防の設置は基礎自治体(市町村)の権限なのです。

その上で、自分の自治体の消防を単独で設置するか、はたまた、近隣と連合して作るか、そういったことは地方自治の観点から、市町村に任されています。

(例外的に東京消防庁は、東京都の消防の形になっています)

よく誤解されますが、総務省消防庁は、全国の消防の司令部ではありません。消防庁長官は「消防の最高司令官」ではありません。

総務省消防庁の役割は、調整・助言等に限られます。

消防の基本は「自治体消防」です。

対して、警察は、都道府県が設置するものですが、実質的には、警察庁に指揮監督権・人事権があり、「1つの日本警察」「国家警察」としての性格が色濃くなっています。

(関連記事:警察小説やドラマを10倍楽しむための,警察を学ぶ入門書おすすめ本5選

あなたも「エマージェンシーコール」の目撃者

既に見てきた通り、警察で、緊急通報(110番)を受理している部署は、「通信指令本部」と呼ばれるところです。

いわば警察本部の司令塔。

110番すると、最寄りの警察署に繋がると思っている方が多いようですが、これは誤解です。

基本的には警察本部の通信指令室で集中受付しています。

(一部、島嶼部などに例外があったり、警視庁や北海道は複数に設置)

なので、110番の際は、正確な住所を伝える努力をしてください。

さて、そんな警察の司令塔。

実は、マスコミでなくても、我々一般市民でも、その実際の場所を見学できるのです。

今回の埼玉県警本部をはじめ、全国の警察本部で庁舎見学などの広報活動を行っています。

(実施の有無、詳細は、各警察本部にお問い合わせください)

ここでご紹介するのは、日本最大の規模を誇る東京都の警察「警視庁」、その本部の見学です。

「桜田門」の警視庁本部庁舎といえば、ニュースやドラマでお馴染みですね。

MPD

この庁舎内には東京23区内からの110番通報を受理し、23区内の警察署・交番や本部執行部隊などに指令を出す「警視庁通信指令本部」があります。

詳しくは以下の記事に詳述しましたので、宜しければ見学のご参考に。

警視庁本部見学ツアーレポート~事件は現場ではなく本部で起こっている~