「新宿!新宿御苑!!」
(本編より:EP-3E機内の朝倉)
【あらすじ】
突如、何の前兆もなく、高さ2キロ、半径30キロに及ぶ巨大な「雲」に首都東京は覆われる。
「雲」は、一切の通信・交通を遮断し、何人も寄せ付けない。首都圏2000万人の住民の安否もわからぬまま、首都を喪った日本。
政治経済中枢を突如失なった「雲」の外では、残された人々の苦闘が始まった・・・。
言う間でもなく、日本SF文学の巨匠、小松左京の同名作品の1987年公開の映画化です。
今、突然、東京が消え、政府も経済金融中枢も消え失せてしまったら、日本はどうなってしまうのか?残された日本人は一体どうすれいいのか?
イマイチ評価の嵐
・・・と、意気込んで書いてみましたが、まあ、あんまり世間の評価は芳しくない。
まあ、確かに、主人公たる技術者の朝倉(演:渡瀬恒彦)とテレビ局報道部員の田宮(演:山下信司)と、テレビキャスターの小出まり子(演:名取裕子)の三角(?)関係みたいな恋愛ぽいパートはいらねえよ!的な批判は結構あるみたいです。
確かに、作品全体が「国家存亡の危機」(政治パート)と「ヒューマンドラマ要素」(人間ドラマパート)のどちらも描こうとして、結果、中途半端になっていることは否めないでしょう。
(最後の、「雲」必殺メーサー車に関してはノーコメントだ!)
・・・とは言え、小生、本作は実は大好きな作品なのです。
酷評ばかりで、いたたまれないので、今回は本作の魅力を独断で見ていきたいと思います。
脇を固める名優たち
本作の楽しみ方は、脇を固める名優たちです。
朝倉の旧友で、「雲」を巡る危機に奔走する幹部自衛官・佐久間 二等空佐(演:夏八木勲)がカッコ良すぎる。あんなサングラスで軍服着られたらイチコロです。
「雲」の正体を究明する大田原 筑波大教授(演:大滝秀治)も未曾有の事態に動じない、いい味を出しています。
外交の矢面に立たされる外務官僚・堀江 国連局審議官(演:竜雷太)。国連局とは懐かしい、現在は総合外交政策局の課に組み込まれていますね。
他にも、全国知事会を主導する小室大阪府知事(演:渡辺文雄)、米ソの尖鋭化を阻止しようとする駐米大使・駐英大使も良かった。
そして、そして。
日本の政治映画に欠かせない俳優といえば・・・
そう!丹波哲郎!
映画「日本沈没」では内閣総理大臣として、沈みゆく祖国を救おうと奔走しますが、本作では前与党幹事長、箱根での病気療養で半ば引退していたため難を逃れた大物政治家・中田代議士を演じています。
中田と小室府知事が中心となって臨時政府樹立に奔走します。
この丹波哲郎の演技が作品に重みを与えます。
場面で愉しむ
そんな名脇役がたくさん登場する本作は、ある意味、名場面を見て楽しむのが、いいのかもしれません。管理人がイチ押しする名場面は・・・
①緊急全国知事会議
日本政府消失に伴い、道府県の知事が大阪に集まります。ここで、小室は全国知事会を臨時国政代行機関(臨時政府)としようと発議します。
この場面は極左過激派のゲリラによる停電で中途で打ち切られますが、正直、この全国知事会の議論を延々20分位やってた方が面白かった気がします。
にしても、中田代議士が会場に来た際の知事たちのざわつきで、「え、生きてたのか?」は笑えました。
②浜名湖上プレジャーボートでの密会
中田、小室、大田原の三者がボート上で密談します。
米国の態度が頑なになり、結局、日本は残された力で、独力で、2000万同胞を救うしかない。国際政治は非情ですね。
③臨時政府発足への決断
「雲」を巡って米ソの軍事的緊張がいよいよ高まります(まだ、中国が全然出てこないのに時代を感じます)。
そして米国は、中央政府のない日本を保護するという名目で、日本の戦略的信託統治領化に動きます。国際政治は無情ですね。
臨時政府準備会議の参加者は一様に頭を抱えます。
ここで、開き直ったように、中田が言います。
「よし!臨時代行政府の発足を強行しよう。・・・それしか手が無い。」
あと、細かいところですが、駐米大使が堀江審議官と電話する場面。駐米大使の部屋に、昭和天皇の写真が飾ってあるところが、さりげなくリアリティを演出していて好きです。
(他の邦画で、実際の天皇の写真を飾っている作品て、観たことありません)
80年代SF映画の悲劇
と、まあ、本作の好きなところを挙げていきました。
とはいえ、やはり、物足りなさはありますし、首都消失という国難にしては、やや緊迫感が不足しているかな、と思うところもあります。
この、消化不良の感じ。これは同じく80年代に制作された「ゴジラ(1984年版)」(以下、84ゴジラ)でも経験していました。ほとんど相似形です。
84ゴジラも重厚な配役が目を引きます
特に首都消失の中田代議士=丹波哲郎にあたるのが、ゴジラ襲来と米ソの核使用要求に立ち向かうことになる三田村首相=小林桂樹です。その名演は数々の名場面を見せてくれました(特に米ソ両首脳とのホットライン!)。
しかし、首都消失と同じように、84ゴジラも恋愛パートが、余計な気がしないでもない。
(メーサー車とスーパーXの相似に関してはノーコメントだ!)
結局、首都消失も84ゴジラも、完全にポリティカルスリラーやSFに振り切れなかったことが、消化不良の原因だと思います。
しかし、それでも、愛すべき作品だと思います。
名優陣の重厚な演技もさることながら、首都消失の音楽は、あのモーリス・ジャールが担当(「史上最大の作戦」や「アラビアのロレンス」)。一方、84ゴジラも緊張感のある音楽が盛り上げてくれました(往年のゴジラファンには不評のようですが)。
分解していけば、観るべきところが多数ある作品だと思います。
もし、再映画化のチャンスがあれば、いっそ「シン・ゴジラ」的にリメイクしてしまうのがいいと思いますが、米ソどころか、米露中朝韓台の凄まじい鍔迫り合いを見せてくれるポリティカルスリラーになっちゃいそうですね。
★84ゴジラの「消化不良」に関しては、以下の記事をご覧ください↓