2013年(米)、ジェフ・ワドロウ監督
あらすじ
前作から3年。街ではキック・アスの影響からか、ヒーローに扮装して、奉仕活動や善行を行う人々が現れていた。
そんな自警組織のひとつに、キック・アスことデイヴ(演:アーロン・テイラー=ジョンソン)は加わっていた。
他方、ヒット・ガールことミンディ(演:クロエ・モレッツ)は、戦闘技術を鍛えるに余念がない生活を送っていた。
その陰で、3年前に、キック・アスやヒット・ガールに、マフィアのボスだった父を殺された息子ダミーコは、マザーファッカーを名乗り、悪の組織を作り、キック・アスらへの復讐を果たそうと、凶悪犯罪に手を染めていく。
おそロシア
美少女(クロエ・グレース・モレッツ)がスラングを吐きながら、悪党どもを容赦なく殺しまくる衝撃作「キック・アス」の続編です。
彼女の可愛さは相変わらずなんですが、今回、影のヒロインとも言うべきは、人食い女「マザー・ロシア」です。彼女なくして本作なし。
もうなんか、凄い女傑で、言葉がありません。
どう見ても、「ニューヨーク1997」「エスケープ・フロム・L.A.」のスネーク・プリスケンを意識した容貌です。
元KGBらしいですが、特殊部隊(スペツナズ)なのは間違いない強さを発揮します。
急行してきた警官隊なぞ、10人まとめて皆殺しです。
官憲の死体の山を前にして「あたしを殺したきゃ、デルタかDEVGRUを連れてきな、ヤンキー」とか言いそうですね※1。
最終決戦で、さすがのヒット・ガールも危機一髪。
是非、スピンオフを見たい最強オバちゃんです。
「ウォッチメン」と通底するもの
前作を見ている時には、あまり感じませんでしたが、本作では、「ウォッチメン」と共通する要素が多分にあることに気付きました。
それは、自警主義の問題です。
米国には、政治権力に対しての根強い不信感があります。
そもそも、米国は、英国の圧政から、独立した人工国家という特殊事情があります。
独立の理論的支柱は、社会契約論(特に、ジョン・ロック)に求められますが、政治社会(国家)は人民の契約によって創設されたものである、と。
なので、極論では、その改廃もあり得ます。
否、極論、国家がなくてもいい。
日本的な発想だと、
「では、誰が我々を守ってくれるのか?」
と思ってしまいますが、その答えは明瞭です。
「自分で守るのだ」
と。即ち、自警・自衛です。
これは、米国における銃規制論争に繋がる問題です。
アメリカは「政府諸部門」をもつものではあるが、主権国家や絶対主義的政治などはもたない政治社会であるとして、みずからを世界に示したのである。
したがって、アメリカの政治的伝統は、反国家的伝統であったし、今日まで間断なくそうであると解釈されてきた。
シェルドン・ウォリン『政治学批判』みすず書房、2004年、262頁。
自警主義とは、自分自身や共同体を自分で守る故に、だから、政治権力(軍隊・警察・徴税など)は、極力介入してくるな、という立場ですから、反連邦政府(反国家)に傾きます。
本作に止まらず、アメリカの「ヒーローもの」には陰に陽に、この思想が見え隠れするのですが、その中でも特に秀作なのが『ウォッチメン』でしょう。
ウォッチメンでは、キーン条例によってヒーロー活動が禁止されますが、本作でも、マザー・ロシアによるテロが原因で、ニューヨーク市内の全法執行機関が総動員されて、ヒーロー狩りが行われます。この辺りの描写、9.11テロ以降の米政府の過剰な対テロ活動を連想させるものになっています。
それでも戦い続けるヒット・ガールは、ちょうど『ウォッチメン』の孤高のヒーロー、ロールシャッハの立ち位置と同じと言えます。
彼は、キーン条例施行後も、自らの倫理観で、悪党どもを血祭りにあげていきます。
つまり、2人は、オッサンか超絶美少女の差でしかない。
ある意味、本作は「コミカル路線なウォッチメン」と言えなくもない。
(話のスケールが最終的に、ウォッチメンは、かなり大きくなりますが)
恐怖のゲロゲリ棒
※以下、下品注意、お食事注意
ここ10年見てきた映画の中で、最大の衝撃シーンでした。
それはエログロ棒、失礼、ゲロゲリ棒
どうも国防高等研究計画局(DARPA)の試作品らしい。つまり、軍用です。
殺害せずに敵対者を無力化させる非致死性兵器は主に治安作戦で使われます。
例えば、暴動鎮圧を考えてみれば、一番有名かつ定番の非致死性兵器は高圧放水でしょう。
日本でも警察機動隊の放水車は安保闘争などで活躍しました。
![police](https://atenai.net/wp-content/themes/the-thor/img/dummy.gif)
軍隊が一線に整列して、小銃の一斉水平射撃などは「鎮圧」ではなく「虐殺」になってしまう。
現代においてはとても非人道的(と世論に指弾されるの)で、そんな所業はできない。
そこで、様々な非致死性兵器が開発されるわけです。
現在では、電撃を喰らわせて昏倒させるもの(テーザー銃)、不快な音響で追い払うものや、目が眩むほどの光源で無力化するものなどが存在します。
そして、そんな中、本作でヒットガールことミンディ・マクレイディが、学校の食堂で使用する非致死性兵器が、「ゲロゲリ棒」です。
めちゃ非人道的。イケイケ性悪美少女3人が、見事に長射程の嘔吐を吐き散らし、尻から下痢を垂れ流す様は、なるほどR15指定だ(まさにエロゲリ棒)。
ところが、この恐るべきゲロゲリ棒には大きな弱点があります。
それは、あまり実戦的ではない点。
非致死性兵器は敵意・殺意を持って向かってくる相手を、安全圏から攻撃して、無力化することに主眼があります。
指向性(警備側に被害が出ないように)かつ間接的に(警備陣と暴徒が接触しない内に)、使用できるのがベスト。
しかし、このゲロゲリ棒は、直接、相手の人体に棒状の部分を接触させなければならないので、使用する側も相手の危害半径に入る必要がある。
その意味で失格です。
とはいえ、相手の戦意を喪失させるという意味では、この上ない代物でしょう。
※1.デルタ=デルタフォース、米陸軍の特殊部隊。DEVGRU=米海軍特殊戦開発グループ、米海軍の対テロ特殊部隊、かつてのシールズ・チーム6。