フィクションにおける「自衛隊」イメージの変遷【後編】~日本人は地球防衛軍の夢を見るか?

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フィクションにおける「自衛隊」イメージの変遷【前編】~「皇帝のいない八月」から「ガメラ2まで

【中編】はこちらです。

フィクションにおける「自衛隊」イメージの変遷【中編】~「亡国のイージス」から「名探偵コナン」まで

最後に傍論ですが、「自衛隊」を出したくない(あるいは視聴者やスポンサーが怖くて出せない)時の、プランBとして長らく使われてきたのが、「超国家軍隊」系です。

一瞬、何を言っているのかわからなくなるやもしれませんが、つまりアレです。

「常設国連軍」もどきの「地球防衛軍」やら「国際警察」やらです。

日本人的妥協の産物としての「超国家軍隊」

まず、「超国家軍隊」。現存の国家の軍隊を「超えた」軍隊です。

思いつくままに挙げるだけで

国連軍や地球防衛軍、地球守備隊、国際空軍(UA)、Gフォース、ウルトラ警備隊、地球警備隊・・・etc.

「せや!国家の軍隊が(大人の事情で)ダメなら、地球(世界連邦・国際連合etc.)の軍隊ならええやろ!」

という発想ですね。「国際」という語は打ち出の小槌です。

憲法問題や左右のイデオロギー対立などの矛盾を一挙に棚上げするウルトラCとして多用されることがあります。

一見、人類の恒久平和の大きな第一歩に見えそうですが、左に非ず。

国家主権や民族自決といった問題をすっ飛ばして、こんな強大な軍隊=世界統一政府を作ってしまうと、最初の目論見とハズレて、コントロールが効かなくなる。

あるいは、少数派にとっての、この上ない脅威となる。

それは「機動戦士ガンダム」(宇宙世紀)の地球連邦政府・地球連邦軍を見れば一目瞭然です。

現実においても、アメリカ合衆国5軍(陸海空・海兵・宇宙軍)は、ほとんどチート状態で、ワシントンの軍事政策で世界中が右往左往している様を見れば明らかではないでしょうか?

上記のような「妥協」や「子供騙し」ではない、真面目に超国家軍隊を正面から扱った国際政治・現代戦漫画として『沈黙の艦隊』(1988~1996年連載)が挙げられます。

日米共同で極秘建造された日本初の原子力潜水艦「シーバット」が、処女航海中に“叛乱”、艦長海江田は独立国家「やまと」を名乗る。

やまとは、圧倒的な性能と政治的パフォーマンスを武器に米ソの両艦隊を翻弄しつつ、ニューヨーク国連本部を目指します。

当初の展開の予想を裏切り、世界規模の政軍分離(世界政府樹立)、核兵器永久廃絶などの気宇壮大な政治構想が次々飛び出し、特に終盤に語られる超国家軍隊「沈黙の艦隊(SSSS)」構想は物語の核心です。

『沈黙の艦隊』は、政治学的・軍事的にみると、突っ込みどころ満載な、楽観的過ぎる部分も多々あるのですが、それでも超国家軍隊の可能性を現代の国際情勢に照らして、見通した意欲作です。

作中、海江田のライバルとも言えるベネット米大統領も、そのような超国家軍隊は「危険すぎる」と拒否します。

(どうでもいいですが、ここまで女性キャラ皆無の作品も珍しい)

銭形警部は主権侵害?

超国家軍隊と並んで頻出するのが、「国際警察」。

軍隊が出せないが、通常の警察では締りが悪い時の、ウルトラCです。

これも超国家軍隊同様、「国際」を付ければ免罪符になるという発想です。

戦隊ものでも大活躍ですね。

しかし、各主権国家が存在している状態で、各国家の管轄権・警察権を超越して警察権を行使するのは、主権侵害以外の何物でもありません。

主権は16世紀のフランスの法思想家ジャン・ボダンが確立したもので、即ち、「主権」とは「一定地域における恒久的・不可分・絶対的な最高の権力」とされます。

法を執行するということは、主権国家の重要な要素であり、国際警察など、その侵害でしかありません。

現実において、それは存在していません。

「いや、ちょっと待て。インターポールは?」

と必ず疑問が出てきます。

インターポール(ICPO=国際刑事警察機構)は、フランスのリヨンに本部を置く国際機関です。

その任務は刑事犯罪捜査に関する各国警察間の捜査共助、つまり「橋渡し」です。

実際の捜査・逮捕は行えません(国際捜査官は存在しません)。

従って「ルパン三世」シリーズの我らが銭形警部の立場は完全にフィクションです。

リアルにルパンを追うのであれば、警察庁からルパンが潜伏している国の政府に捜査協力を要請して、銭形を派遣する位。

そこで、銭形が現地警察を指揮することも、逮捕権を行使することもできません。銃すら持てないでしょう。

あくまで逮捕権は当該国の主権です。銭形がそれを超えてしまったら、逆に彼が逮捕されます(あるいは強制送還と日本政府への厳重抗議)。

インターポールの出番は、ルパンの国際指名手配と、銭形が派遣される際の日本(警察庁)と外国政府(現地の法執行機関)の「橋渡し」くらいです。

「ICPOは警察の国際郵便ポスト」なんて言われ方すらしますね。

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また、ICPOの前身「国際刑事警察委員会」(ICPC)には、ナチスドイツに利用された苦い過去があります。

「金髪の野獣」こと冷酷非道なナチス親衛隊幹部ラインハルト・ハイドリヒが総裁を務めたことすらありました(!)。

ICPOの実態を知れば、「国際警察」へのイメージがだいぶ変わるのではないでしょうか?

なお、似たような実在の機関にユーロポール(欧州刑事警察機構)がありますが、こちらも、欧州連合の加盟各国への警察活動支援が主任務です。

フィクションは思潮の鏡

既存の「国家」を無くして、別の次元の「集団」に権力を付与するという発想は、結局、別の「政治的共同体」を創設しているだけなので、あまり意味のない行為、トートロジーの様なものだと思われます(マルクス主義における国家否定など)。

ともかくも、フィクションというのは、その時代の思想・思潮と無縁ではなく、色濃く投影されます。

日本人の軍事・権力観もその例外ではありません。

メインカルチャー・サブカルチャー問わず、そのような視点で、作品を鑑賞するのも一興かと思います。