軍事博物館てご存じですか?
その名の通り、軍事関係の展示を行っている博物館です。
広義の戦争博物館というのは、全国各地に存在します。戦争(特に第二次大戦)の惨禍を記録・伝承・啓発するような施設です。
一番有名なのは、広島の「広島平和記念資料館」でしょうか。
対して、軍事博物館は、軍事そのものに特化した施設です。
当然、そうなると、現実の国政で、軍事(国防)を担っている防衛省・自衛隊に関しての博物館となります。
こういわれると、「それはないだろう」と思われそうですが、これがあるんです。
東京に程近い埼玉県朝霞市に。
軍事博物館、というとピンと来ないかもしれませんが、防衛省・自衛隊側に言わせれば「広報」です。
「陸上自衛隊広報センター:りっくんランド」がそれです。
「りっくんランド」なんて、ゆるい愛称が付いていますが、まぎれもない軍事博物館です、はい。
東京から近い
陸上自衛隊朝霞駐屯地。練馬区と新座市、和光市、朝霞市にまたがる広大な敷地を有しています(練馬区の部分はごく一部ですが)。
有事には陸上自衛隊全体を統括する役割を持つ陸上総隊司令部や、関東甲信越地方の防衛警備を指揮する東部方面総監部が置かれるなど、重要な駐屯地でもあります。
隣接する朝霞訓練場では3年に一度、中央観閲式が挙行されます。
都内からも大変近いです。
東武東上線の朝霞駅か和光市駅が最寄ですが、これがなかなか遠い・・・。徒歩で30分近くは覚悟が必要かも・・・。
駐車場がありますので、車での来館をお勧めします。川越街道(国道254号線)沿いです。
ちなみに、東京からくる場合、同じ川越街道沿いには、もっと手前に練馬駐屯地もありますので、お間違えなきように。
また、平日の開館日が少ないので、必ず公式ホームページの開館カレンダーはチェックしてください。
コロナ禍での来館
2021年4月、緊急事態宣言明けに訪問しました。
以前は、比較的に自由(そして無料)にふらっと訪れることができた場所ですが、新型コロナ禍とあって、事前予約などが必要になっています。事前に公式ホームページで必ずご確認ください。
また、感染予防として、幾つかの展示物・体験コーナーは閉鎖されており、仕方ないことですが、やや残念。
(※展示制限が徐々に撤廃されています。随時更新しますが、お出かけの際は公式HPをご確認下さい)
圧巻の館内展示
館内に入って、メインの1階ホールに入りましょう。
なんといっても、中央に据えられた対戦車ヘリコプター「AH1Sコブラ」が人目を惹きます。
対戦車ヘリは1機で戦車10両を撃破できるとも言われており、冷戦時代にソ連の脅威を受けていた北海道を中心に配備が進められました。
映画「シン・ゴジラ」でも登場しましたね。しかし、耐用年数が迫り、現在は減勢の一途です
(早く、次を決めて!)
正面から見ると、その細さがわかります。コブラとレイバーのパイロットは小柄がいい?。
にしても、銃口の前に立つのは何か緊張する・・・。
↑前列操縦席(射撃手席)狭い!
そして、その奥には、タイヤ(装輪)式の装甲車が見えます。
以前はここに90式戦車が鎮座していましたが、今は、陸自期待の星こと「16式機動戦闘車(MCV)」が鎮座しております!
近い将来、戦車は北海道と本州の一部(富士山周辺)と九州以外では絶滅する予定でして、それ以外の部隊に、戦車の代替として配備が進められています。
ここ朝霞駐屯地にも将来、配備される予定です。
他にも、3Dシアターやフライトシュミレーター、射撃シュミレーターなども設置されています。
見よ!戦車の威容
館内から外に出ますと、芝生を敷き詰めた屋外広場です。
こちらには、ズラリと並ぶ戦闘車両の威容が。
こんな「豪華」な光景は、実際には第7師団(北海道・千歳)か富士教導団でしか見れませんが・・・。
ほとんどの部隊は、自動車化(トラックや軽装甲機動車)はしていても、装甲化していないのが実情です。
こちらは歴代戦車三世代が揃い踏み。今やレッドデータブック状態の戦車です。
(右から10式、90式、74式の各戦車。一番左はこれまた稀少種な89式装甲戦闘車)
「戦車不要論」という考え方もあり、戦車の存廃を巡っては、議論が絶えないのですが、NATO諸国では、ロシアの脅威再燃で、戦車の価値が見直されています。
16式MCVにしろ、戦車そのものと対等に渡り合うものではありません。
少なくとも、一度失ったものは取り戻せない(非常に困難)という教訓は軍事にも当てはまるので、機甲(戦車)科そのもの(戦車開発のノウハウや教育体系、技術の継承)は存続させていくべきだと思います。
↑またまた稀少種、87式自走高射機関砲。「スカイシューター」という愛称だそうですが、部内ではもっぱら「ガンタンク」と言われてるそうで・・・。
↑水陸両用、船になっちゃう94式水際地雷敷設装置。以前は運転には船舶免許が必要だったそうで。
「戦場の女神」こと砲兵(自衛隊では「特科」)の特科車両も展示されています。
74式と75式を比べると、砲の大きさ、口径が全然違いますね。
自走砲であるメリットのひとつは、素早く移動できることです。なんせ、射撃すれば、すぐに敵の対砲レーダーで位置が曝露されてしまうので、逆襲を回避する為に、撃っては移動、撃っては移動の、「陣地変換」を強いられるわけですから。
地下指揮所
屋外に出てすぐ左手には、地下指揮所への階段があります。
敵の偵察や空爆、砲撃からの生存率を高めるために、施設科部隊(工兵)などが、地下に指揮所を構築します。
指揮所は格好の的ですから、地下にあるのが当たり前になっています。
こちらの展示のような野戦指揮所はもちろん、もっと大規模な、事実上の地下要塞のようなものも海外では存在しています。
(米国の北米防空司令部は、山まるごと、くり抜いて建築され、核攻撃に耐えるように設計されました)
隠れスポット
実は、この屋外広場から奥へ進むと、更に見学できる施設があるのです。
それは、振武臺(しんぶだい)記念館。
朝霞には、陸軍予科士官学校が存在しました。こちらには、その関係の資料など、旧軍関係の展示がされています。
自衛隊の施設(駐屯地、基地)には、旧軍から受け継いだ場所も多く、そういったところには、規模は小さいですが、戦争博物館のような施設を設置してるところもあります。
ご興味のある方は、調べてみては。
様々な催し
2階には陸上自衛隊の歩みを振り返る展示室などもあります。
また、様々なイベントが開催されることがあり、筆者が訪問時には、VRの体験イベントが行われていました。
1階エントランスには、売店もあります。
軍隊にとっての広報とは何か?
今回訪れたのは、陸上自衛隊の広報施設でしたが、他にも航空自衛隊が「浜松広報館エアーパーク」(静岡県)、海上自衛隊が「呉資料館てつのくじら館」(広島県)「佐世保資料館セイルタワー」(長崎県)などを開放しています。
こういった施設の存在に疑問符を持たれる方もいるかもしれません。
例えば、国費を投入していることに。
では、軍隊における「広報」とはなんでしょうか?
そもそも軍隊は、国民の支持がなければ戦えません。
国民の支持なしに、軍隊だけが頑張っても、何とかなるものではりません。
軍隊が、全く「顔」の見えない存在では、支持も信頼もないでしょう。
その「顔見せ」の場として軍事博物館は存在します。
一体、どのように国費が使われているのか?どのような組織なのか?
故に、「広報」も「平時」における立派な「作戦」とも言えます。
もちろん、権力機関なので、例えば、監察やオンブズマン的なチェックや文民統制も必要なのですが、それはまた別のお話で、そちらばかりに偏っているのは正常な状態ではありません。
ユーモアと広報
「なるほど、広報の重要性はわかった。しかし、ゆるキャラに走ってみたり、もう少し、何とかならないのか?」
当然出てきそうな意見です。
ここは匙加減だとも思うのですが、古色蒼然たる広報(及び施設)で、果たして、国民のどれだけが、「最初の」興味を示してくれるのか?という問題があります。
いわゆる「硬質な」広報で興味を持ってくれる層は、放っておいても興味を持つのではないでしょうか?
しかし、本当にアピールしたいのは国民全般です。
直接、広報に関係ないのですが、米軍の参謀向けのマニュアルにこんな箇所があります。
ユーモアのセンスは1つの財産である。ユーモアのセンスとは、道化師になれとか、バカ話をせよとかいうことではない。ユーモラスな面に気づいたり、理解できることは、緊張をほぐし、友好的雰囲気をつくり、困難に向かっていこうという意思をつくるものである。
J・ニコラス他『統合軍参謀マニュアル』白桃書房、1987年、186頁。
軍人にとってのユーモアという観点から見れば、「ゆるい」広報も、必要な要素かもしれません(繰り返しますが、匙加減次第です、はい。)
ちなみに、様々な官公庁が見学や広報施設を置いていますが、個人的には、自衛隊の方が一番親切です。やはり、その存在自体が議論の的になってきた経緯故でしょうか。
※管理人個人の体験レポートですので、実際の状況等はその都度変更される可能性がありますので、必ず公式ホームページ等をご確認ください。