ドラマ相棒:政治描写の違和感~右京さんの正義とは?~(シーズン7ネタバレあり)

ドラマ「相棒」を見ている方、多いですよね。

刑事ドラマの中でも、特に根強い人気ドラマではないでしょうか。

今まで、数々の権力者が罪を犯し、右京さん達に逮捕されてきました。

相棒の世界線では、警視庁公安部長や生活安全部長、最高検検事次長、果ては内閣官房長官や副総理まで、政治家・権力者・高級官僚による犯罪は後を絶ちません(どんな国家だよ・・・)。

でも、政治描写については、いつも違和感が残る・・・。

今回は、その理由について語ってみたいと思います。

・・・あ、ちなみに、相棒ファンですからね!

プレシーズンから、例の「ダークナイト」騒動(シーズン13フィナーレ)までは、ほぼ全話観てきました(その後は、段々減っていった・・・)。

なので、アンチの視点からのお話ではありませんので、悪しからず。

「権力の犯罪」とは何か?

the Houses of Parliament

お正月やシーズンフィナーレの特番枠は、スケールを大きくするためか国家の陰謀の様な「権力の犯罪」モノが多く放送されています。

ま、これはこれでいいんですが、いつも違和感を覚えるんです。

それは、「権力の犯罪」が、いつの間にか「権力者個人の犯罪に矮小化」されている点。

動機は色々あります。

国益・国防の為とか・・・まあ、政治ネタなんで、これはわかります。

でも、犯罪の様態がおかしい。

だって、その権力者個人が直接手を下す(殺害する)事件の何と多いことか!

「権力機構の恐ろしさ」が伝わらない

これだと、権力者個人の人格の問題とかになっちゃって、「国家権力」自体の犯罪にならない。

国家は様々な手足を持っています。

誰かを排除(殺害)しようと、国家(あるいは一つの権力セクション)が決断した時、それを実行するのは末端の、まあ怖い人たちです(海外ならアクションサービス、工作機関ですかね。日本は・・・)。

なんで本人が動いてるんですかねぇ・・・。

右京さん達も、人事で圧力なんかも喰らいまくりですが、それにとどまるし。

なんか圧力中途半端。

国家権力の恐ろしさは、その巨大なシステムにあります。

あんまり、そのシステムと戦っている感がない。

ただ、「偉い悪い奴」と戦っている、だけみたいな。

そういえば、監察官はよく出てきますが、公安があんまり出てきませんね。

上層部が本気だったら、公安の妨害とか、もっとあってもおかしくないような・・・。

公安の組織力が敵だと、右京さんも、かなり、いや、大苦戦だと思うんですが・・・。

【シーズン7】右京さんの法治主義を問う

右京さんは「権力の犯罪」と戦いますが、自身が逆に「法の奴隷」になっている時があります。

即ち、右京さんの犯罪を憎む気持ちはよく伝わるんですが、あまりに杓子定規な時があるのが、玉に瑕。

特にシーズン7の冒頭の第2話「還流~悪意の不在」。

元法務大臣・衆議院議員の瀬戸内米蔵(演:津川雅彦)が逮捕された回。と言えば、皆さんご記憶にあると思います。

この回では、発展途上国への援助物資を瀬戸内が横領しています。

しかし、その目的は、途上国の腐敗政権が援助物資を横流しし、私腹を肥やし、飢えた子供たちに援助が届かないため、瀬戸内が裏ルートで物資を換金し、NGOを通じて、直接子供たちに、援助を行っていたのです。

つまり、瀬戸内の行為は、「法的に違法だが、倫理的には正当」と言えるのです。

瀬戸内:「杉下君、僕がやったことは犯罪だ。それは承知している。

しかしね、杉下君。サルウィンの子供達を救うには、このやり方しかないんだ。

日本政府がサルウィンにいくら人道援助をしても、サルウィンの子供達には届かないんだ。

食べるものが無くて毎日サルウィンの子供達が飢えて死んでるんだ。

薬が買えなくて治る病気も治せずに死んでるんだよ。

NGOがやっている事がアマチュアなら僕ら政治家はプロかもしれない。

君が言う通り、プロはプロとして合法的に有効な手段で人助けをすべきだろう。

しかしね、人助けにプロもアマチュアもない。

人が人の命に辛うじて出来る事は救う事だけだ。

僕の言ってることは間違っているかね?」

右京:「どんな理由であれ、罪は罪。

法によって裁かれ、罰せられ、償われるべきです。

法務大臣であればなおさらのことではありませんか。」


「相棒」シーズン7 第2話終盤

うーん、そうかなあ。全然納得いかない。

勿論、法治国家なんですが・・・。

これは典型的な「法治主義」じゃないですかね。

法治主義は、実定法を、その形式として守る思想です。

うん?普通じゃないかって?法律を守るんだから。

注意して下さい。「形式」だけを問題にしているんです。

つまり、「内容」を問うてはいないんです。

現実に成立している実定法は、その内容如何を問わず、形式が整っているなら守らなければならない。

たとえ、悪法や欠陥があっても。

いわゆる「悪法もまた法なり」です。

これは、ドイツなどが典型です。

皆さん、第二次世界大戦ものの映画はご覧になりますか?

ドイツ軍人達がナチスの非人道的政策(ホロコースト等)に反感を持ち、叛乱を議論するが「おい!我々は総統に忠誠を誓ったんだぞ!」と一人が言って、全員が諦める場面。

よく見かけませんか?

総統への忠誠=法が、正義(倫理)を妨げています(いわゆる忠誠宣誓問題)。

このようなドイツ(というか大陸法系)の法治主義に対して、英米法には「法の支配」という思想があります。

こちらは法の形式だけではなく、法の内容の正統性も常に問題にされます。

形式的に整っていても、法の内容が不当であれば、その法に正統性はない。

現在のドイツ連邦軍には、「抗命権」が規定され、不正な命令は拒否できますし、米軍は元々そうです。

「悪法もまた法」なのでしょうか?

(ちなみに、この言葉が、ソクラテスの言葉と流布していますが、誤りです)

如何でしょう?

瀬戸内議員と右京さん、どちらを支持しますか?

飢えた子供達を前にして・・・。

Slums

ここが変だよ権力描写

あとは、つまらないツッコミどころを。

・甲斐警察庁次長、息子が逮捕されて、左遷?

 いやいや、警察庁ナンバー2の息子、それも現役警察官の犯罪、世論的にも官僚の掟としても、即辞任じゃないと、リアリティが無さすぎる気が・・・。

 それを長官官房長付き、って・・・。ちょっと設定に無理がありますよね。

・とにかく人事が動かなすぎ。

 右京さんは島流しの座敷牢でわかるんだけど・・・。

 内村刑事部長や角田課長(組対5課長)がずっと同じポジションは・・・。

・別に、中国の国名、ぼかさなくてもいいんじゃないですかね・・・。

・なぜか日米安保絡みがない。

 米軍基地のせいで人生狂わされた男の話はあったが・・・。

「権力と戦う」というなら、「この国」で、これほどの権力は無いから・・・。

おまけ

最後に個人的な蛇足を。

・どうでもいいんですが、「赤いカナリア」の本多篤人(あつんど)は、攻殻機動隊SAC2の内閣情報調査庁の合田一人(かずんど)のオマージュですか?

・右京さんの相棒は、もう、チャンドラー探偵事務所のマーロウ矢木こと矢木明(演:高橋克実)でお願いします。

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