ソ連の作家ストルガツキー兄弟のSF小説です
後にソ連の巨匠アンドレイ・タルコフスキーにより映画化されました(タイトルは「ストーカー」)。
あらすじ
ある街に、突如「何か」が起こり、その地域は異常な、人類の科学では理解できない現象が頻発し、想像を絶するオーバーテクノロジーの品々が散乱する危険な地帯に変貌した。
当局は、その地域を「ゾーン」と称し、研究・監視すると共に、厳重に封鎖した。
しかし、国連警察軍の監視の眼を掻い潜り、それらの品々を回収し、一攫千金を狙う密猟者(ストーカー)が暗躍することになる。
果たして、「ゾーン」は、人間の手に負えるものなのか・・・?
ファーストコンタクト・・・?
突然起こった異変は「来訪」と称されています。
地球外生命体が、その地域にやってきた。
しかし、彼らは、地球人とコンタクトすることなく、去っていた・・・。
これが、地球側の仮説です。
この時点で、他のSF小説のファーストコンタクトものとは一線を画しています。異星人との感動的なコンタクトも壮絶な星間戦争もなく、あるのは「来訪」したであろう「痕跡」のみ・・・。
実際に、「来訪」があったのかも含めて、確証はなく、ただ、その痕跡(であろうもの)が残されている状態。
異常な現象や、信じがたい遺物(オーバーテクノロジー)が散乱している。
- 「来訪」時に鳴り響いた轟音によって住民が盲になってしまった街区
- あらゆるものを溶解させる恐るべき「魔女のジェリー」
- 墓場から蘇り歩き回る死人(ゾンビ)
- 「蚊の禿」と隠語で呼ばれる重力凝縮場
etc.
そういった「異常」が作中に散りばめられています。
ピクニックの夜の後で・・・
本作のテーマは、「人類が異星人に出会った時に、それは互いに“理解”できる次元においてなのか?」だと思います。
ゾーンの研究・監視機関の官吏ヌーナンとノーベル賞学者ピルマン博士の昼食中の雑談。ここに本作のテーマは包括されているように思います。
「しかし、来訪はどうなんですか?来訪のことはどう考えているんですか?」
「ひとつピクニックのことを考えてみたまえ 」
ヌーナンは身震いをした。
「なにが言いたいんですか?」
「ピクニックだよ。こんなふうに想像してみたまえ―
森、 田舎道、草っ原。車が田舎道から草っ原へ走り下りる。車から若い男女が降りてきて、酒瓶や食料の入った籠、トランジスターラジオ、カメラを車からおろす……テントが張られ、キャンプファイヤーが赤々と燃え、音楽が流れる。
だが朝がくると去っていく。一晩中まんじりともせず恐怖で戦きながら目の前で起こっていることを眺めていた獣や鳥や昆虫たちが隠れ家から這いだしてくる。で、そこで何を見るだろう?
草の上にオイルが溜り、ガソリンがこぼれている。役にたたなくなった点火プラグやオイルフィルターがほうり投げてはある。切れた電球やぼろ布、だれかが失したモンキーレンチが転がっている。タイヤの跡には、どことも知れない沼でくっつけてきた泥が残っている……そう、きみにも覚えがあるだろう、りんごの芯、キャンデーの包み紙、罐詰の空罐、空の瓶、だれかのハンカチ、ペンナイフ、引き裂いた古新聞、小銭、別の原っぱから摘んできた、しおれた花……」
「わかりますよ。道端のキャンプですね」
「まさにそのとおりだ。どこか宇宙の道端でやるキャンプ、路傍のピクニックというわけだ 。きみは、連中が戻ってくるかどうか知りたがっている」
ストルガツキー『ストーカー』早川書房、1990年、190-191頁。
ゾーンの現象は、人類の理解の範疇外です。
辛うじて、科学的知性が否定しますが、ほとんど「奇蹟」か「魔術」の類だと、人々は感じているのではないでしょうか。
SF文学の大家アーサー・C・クラークの言葉で「発達し過ぎた科学は魔法と見分けがつかない」というものがあります(いわゆる「クラークの三法則」のひとつ)。
中世に現代科学の成果を披露すれば、魔女裁判にかけられるでしょう。
それと同じことです。
しかし、それは、同じ地球人での数百年であり、おそらく、「ゾーン」の「来訪者」と地球人類の格差は、同日の談ではないはずです。
もはや人間と虫の差。
上述のピルマン博士は、これを悟り、やや諦観した人物に描かれているようです。
映画化、そして・・・
本作は、この後、映画化されます。
監督は、ソ連の巨匠であり、20世紀を代表する映画監督の一人である、アンドレイ・タルコフスキー。
こちらの作品は、原作とかなり趣を変えた作品になっています。
(映画「ストーカー」はこちらの記事をどうぞ→映画「ストーカー」(監督アンドレイ・タルコフスキー)~異色のソ連SF映画とチェルノブイリ)
また、海外で、いくつか映像化の企画があったようですが、いずれも、休止か中止になっているようです。
「ゾーン」はそれこそ、未知の宝の山の様な舞台装置なので、今後、新たな映像化を期待したいです。