十分な訓練を受け、しっかりと武装し、規律に従う人間たちこそが最高の防御壁なのである。
マックス・ブルックス『ゾンビサバイバルガイド』エンターブレイン、2013年、134頁。
「寄生獣」といえば、言わずと知れた日本SF漫画の金字塔ですが、それをアニメーション化したのが、「寄生獣 セイの格率」です。
やや展開がスピーディーで、全24話では無理があったかな?とも感じられますが、ほぼほぼ原作を忠実にアニメ化しています。
ただ、「ほぼほぼ」と言ったのは、幾つかオリジナリティや違和感があるからで、特に個人的に違和感の覚えたのは、終盤の東福山市役所掃討作戦です。
「内環部隊」の描写
終盤、寄生獣(パラサイト)の巣窟となっている東福山市役所に対して、政府が掃討作戦を決行します。
この作戦では、外環(包囲)を警察(機動隊)が、内環(索敵・殲滅)を自衛隊が担当するのですが、この内環の描かれ方に違和感。
原作漫画では陸上自衛隊の普通科部隊(歩兵)が相当数動員され、索敵と殲滅を着実に実行していきます。
アニメも、流れ自体は同じなのですが、部隊の描写に違いがあります。
どう見ても特殊部隊です。
原作だと、普通科部隊がかなりの数(中隊単位は超えている感があります)と火力でパラサイトを圧倒していくのに対して、アニメは、特殊部隊が班?単位くらいで駆除していくので、火力の優位がありますが、数の優位が無いようです。
それなので、原作だと、自衛隊側に犠牲者が出ても、元の母数が大きいので、すぐに人員は補充されるでしょうから、制圧作戦の進行にほとんど影響しません。言うなれば、大人数で市庁舎内を「面」で制圧していく感があります。
ところが、アニメ版は、少数の特殊部隊が班単位で動き回るので、「点」で制圧していく感があり、元の人員母数が少ないので、どんどん目減りしていきます。
各班の残存が合流・吸収を繰り返します。
この原作とアニメでの掃討作戦の描写は、似て非なるものです。
特殊部隊万能論
そもそも、軍隊を投入する意味とは、どこにあるのでしょうか?
すぐに思いつくのが、「火力」でしょう。
確かに、軍隊の保有する火器は、警察など比較になりません。
ですが、これが唯一の利点ではありません。
軍隊を投入する利点は、これとは別に2点あります。
1つに、国内法の制約を免責されて、一部の規定を除いて原則自由に武力を行使できること。
2つ目(こちらが今回の記事に関連するのですが)、組織力です。
軍隊は、厳格に統率され、規律された戦闘力です。
いわば戦闘マシーンとして機能するように日々訓練され編成されています。
そして、それを膨大な人員規模で擁することで、その戦闘力はいくらでも高めることが出来ます。
そのような規律や訓練の行き届いた歩兵(自衛隊での「普通科」)は、極めて強力であり、かつ、軍隊の基礎となる兵科です。
その場所(面)を制圧するのは、最後は生身の人間である以上、当然の帰結でしょう。
ところで、巷でよく誤解されるのが、「特殊部隊」という存在です。
確かに、古い格言に、「特殊部隊1個小隊は1個歩兵師団に匹敵する」とか、というのがあります。
しかし、これは別に特殊部隊1個小隊(50名)が1個歩兵師団(1万人)と「互角に戦えるスーパーマンである」という意味ではなく、「浸透した特殊部隊1個小隊の掃討には、1個歩兵師団の動員が必要」とか、「使い方によっては、特殊部隊1個小隊の戦果は、1個歩兵師団のそれに相当する」という意味です。
特殊部隊は、暗殺、破壊工作、扇動、テロ制圧などの特殊かつ高度な任務に適している存在ですが、それは「点」をピンポイントで一撃・離脱することに近いものがあります。
決して、特殊部隊は万能の超人ではないのです。
個体と組織
そう考えると、東福山市役所掃討作戦の描写はどうなのでしょうか?
パラサイト一体の戦闘力には、生身の人間1人では到底太刀打ちできず、八つ裂きにされるのは目に見えています。
そこで、人間一人としては極力戦闘力を高めた兵士、それも最強クラスの特殊部隊員・コマンドウを充てる。
一見、正しそうですが、誤りです。
どんなに鍛えて、火器を装備させても、人間1人の戦闘力とではパラサイトに分があります。
パラサイト1体VS.兵士1人は、いわば「点」と「点」の戦になってしまいます。
そんな不確かな賭けをする訳にはいきません。
特殊部隊での作戦は、いわばこれです。
対して、原作の普通科部隊での作戦はどうでしょう。
複数のパラサイトに対して、軍事的な「組織力」で圧倒し、さながらローラーで押しつぶしていく感があります。
いわば、複数の「点」VS.「面」です。
あなたが幕僚(参謀)ならどう作戦計画を策定しますか?
市役所掃討作戦は、最終的に、後藤によって掃討部隊は全滅させられますが、これも少数の特殊部隊が全滅するよりも、大人数の「面」であるはずの普通科部隊が全滅するから、インパクトがありました。
広川グループが・・・
とはいえ、広川らの集団は、後藤を除いて「駆除」されてしまう訳です。
しかし、もし、広川らが駆除されずに生き残ったら?
先ほどの「点」と「点」の話から、
「じゃあ、パラサイトを点ではなく、組織化して軍隊化したら最強じゃねえ?」
と思われた方。
御明察。でも、それ、別漫画になっちゃいますね
化け物の軍隊化なんて完全に『ヘルシング』の最後の大隊
ところで、寄生獣のアナザーストーリー、『寄生獣リバーシ』はオススメです。
広川市長の息子が主人公の、もうひとつの物語。本編とのリンクが、まるで最初からあった伏線のような秀作です。