NHKドラマ「17才の帝国」(感想・考察)~その道はディストピアに至るのか?《第4話》

★《第1~3話》の考察記事はこちら

→「17才の帝国」(感想・考察)~ソロンは古代アテナイの夢を見るか?《第1話~第3話》

「地獄への道は、善意で舗装されている。」

サミュエル・ジョンソン

実験都市ウーア(旧・青波市)での弱冠17歳の首長と政治AIによる「新しい政治」を巡る物語も、全5回の内の第4話まで放送され、物語はいよいよ終盤に入ってきました。前回の記事に引き続き、今回も、第4話までを視聴した感想と考察めいたものを書いていきます。

第4話まで観てきますと、本作には大きな二つのテーマがあるように見受けられます。

第1のテーマ

まず第1のテーマ

それは全てを数値化・計量化した社会は正常なのか?という問いです。

「ソロン」という量子コンピューターAIによって、人々の幸福度は計量化され、支持率はリアルタイムで可視化されます。

しかし、その数値化に、どこか、うすら寒いものを感じるのも事実です。

極めつけは、ヒロインのサチが導入した「善意ポイント」。このシステム、善行をポイント

化する彼女のとっておきのアイデアですが、残念、それには先駆者がいます。

中国です。

中国政府は「社会信用スコア」と呼ばれるポイント制の導入を進めています。

各住民は、自身の行動でスコアが加点されたり減点されたりして、それにより、社会生活を営む上でメリット・デメリットが生じる仕組みです。

(例えば、公共交通機関への制限)

このニュースが流れると、西側諸国は、「中華ディストピア」だと鼻白みました。

近代国家のひとつの特徴に、内面には踏み込まずに外面だけを取り扱うという考え方があります。かつての宗教戦争への反省からです。

「幸福」や「善意」といった内面を数値化されることは、それを数値によって比較優劣できることであり、かつ価値観の一律化になります。

人間の内面(平の言葉を借りれば「魂」)は、そんな無機的な、単純なものなのか?

究極的には権力による内面への侵入を許す道になりかねないリスクと言えます。

第2のテーマ

第2のテーマは

経験的なものを完全に排除して政治は行えるのか?

ウーアは完全に何もない白紙の土地に設置されたものではありません。

青波市という既存の地方都市が独立特別行政区に指定(変更)されたものです。

故に、当然、そこには住民がいる訳で、その人々の人間関係・地縁・血縁から歴史・文化まで、あらゆるものが複雑にからみ合って、堆積(たいせき)している訳です。

他方、ソロンの行う「新しい政治」は、合理的計算・数値的根拠を元にベストな、最適解な計画主義的な政治的共同体を建設・維持する点にあります。

ここにひとつの対立点が生まれます。

この対立は、そう目新しいものではありません。

むしろ政治学ではお馴染みの、保守主義と革新主義(進歩主義)の対立です。

保守と革新は、日本では俗な理解をされてしまっていますが(特に前者)、そこには「理性」と「歴史」という争点があります。

近代の「理性」というものは、計算能力を意味しています(中世以前は異義ですが)。

進歩主義は、理性の計算能力を信じ、理性が計算し、計画することで、良い国家・社会は建設できるのであり、それが結果的に歴史が良い方向に「進歩」することに繋がります。

ソロンのような量子コンピューターAIは近代的な理性の理想形のようなものです。

ほとんど完璧に見える計算こなしてくれます。

対して、保守派は近代的理性をそれほど信用しません。

理性は時に間違うからです(常にかもしれませんが)。

こちらが信を置くのは、「歴史」です。

「歴史」は過去の人間たちが試行錯誤してきた結果であり、その上にある慣習や伝統は、最善のものではないが、世界に秩序をもたらしている。

この「最善のものではないが」というのがポイントで、保守派も、現状の改善には同意しますが、それは急激なものではなく徐々に改善していくものです。

試行錯誤して作られた共同体の秩序は、微妙なバランスで出来ています。

保守主義の格言に次のようなものがあります。

「なぜ柵があるのか知らない内は、柵を外してはならない。」

チェスタトン

片田舎の道の脇に意味もなく古びた柵が作られている。一見、何のためにあるのかわからない。

ところが、それは、もしかしたら、とても重要な何かの役目を担っているかもしれない。

その「何か」が分からない内に、それを撤去してしまうと・・・

fence

まさにバタフライエフェクトのようなお話ですね。

ウーアで、改革に対して住民から様々な抵抗が生まれますが、これは一種の心情的保守主義とでもいうべきものです。

これに板挟み状態に陥るのが、ウーア総理である真木です。

退職勧奨される区役所職員との面談

反対デモ

彼は、果たして、どう決断していくのでしょうか?

第3のテーマは描かれるか?

ところで、政治AIといえば、古今東西のSF作品で繰り返し描かれてきたのが、その「暴走」です。

少し古いですが、典型的なのが、映画「コロッサス」(邦題:「地球爆破作戦」)。

近年だと、「マトリックス」や「ターミネーター」でしょうか。

残すところあと1話で、この展開は待っているのでしょうか?

真木の対話しているAI人格「スノー」の言葉はやや不穏なものでした。

「もっとウーアを理想の世界にしよう」

第5話&総括」を書きました。

スノウはコロッサスになりたかった《第5話・総括》