「ゴジラ」(1984年版)の一考察~如何にしてスーパーXは陸上自衛隊所属となったか

「ゴジラ」シリーズの中でも、評価が分かれる作品といえば、「ゴジラ」(1984年版)ではないでしょうか。

それまでのゴジラシリーズをリセットして、ゴジラ第一作の直接の続編として制作されました。

敵対する怪獣がいない本作では、ゴジラの敵は自衛隊です。その自衛隊の決戦兵器として登場する架空の兵器が、空飛ぶ炊飯ジャー「スーパーX」です。

西新宿の摩天楼を舞台に、ゴジラと死闘を演じてくれました。

空を飛ぶけど陸上自衛隊?

映画館で販売される公式パンフレットによれば、スーパーXの正式名称は、

「陸上自衛隊首都防衛移動要塞T-1号」だそうで、

所属は

「幕僚幹部付実験航空隊首都防衛隊」(原文ママ)だそうです。

誤字の訂正と加筆をすれば

「陸上幕僚監部付実験航空隊首都防衛隊」ですね。

そう、空を飛んでいるんですが、コレ、陸上自衛隊(陸自)の装備なんです。

今回は、この「空飛ぶ要塞」が、なぜか陸上自衛隊の所属な点を突っ込んでいきます。

ホーク・ナイキを巡る鍔迫り合い

ところで、自衛隊の対空ミサイル(SAM)部隊は、三自衛隊の内のどこに配置されていると思われますか?

正解は、陸自と空自、共に配備されています。

この対空ミサイルの配属を巡って、かつて、一悶着がありました。

これは、1960年代の米国製の「ホーク」「ナイキ」両SAM導入に遡ります。

地対空ミサイルについて

  • 陸自は「高射砲の延長であり、高射特科の管轄」
  • 空自は「防空用なので当然、空自の管轄」

と両者が対立しました。

この問題は結局、「低空域防空用」が陸自、「高空域防空用」が空自という事で決着し、それぞれ、陸がホークを、空はナイキを配備するという棲み分けがなされました。

(ナイキSAMは既に陸自が配備していましたが、空自に移管する格好に)

上記のような、装備や役割分担をどうするのかというグレーゾーンはどの国でも発生しますし、それが容易に対立にも転嫁します。

ちなみに米軍だと、ホークもパトリオット(ナイキの後継SAM)も一元的に米陸軍が管轄しています※1

軍種間の縄張り争い

なにもこれは、自衛隊に限った話ではなはなく、軍隊の宿命みたいなものです。

「軍対軍」「軍種間対立」という問題は、大きなテーマのひとつです。

例えば、アメリカ軍には、「陸軍が2つ、空軍が3つある」などと揶揄されます。

どういう事かというと、米軍には、米陸軍と米海兵隊がそれぞれ地上戦力を有しています。

航空戦力(エア・パワー)に至っては、米空軍、米海軍、米海兵隊の3軍種もが独自の航空戦力を有しているのです。

単純に考えれば、地上兵力は米陸軍に、航空戦力は米空軍に集約・一元化すればいいのではないかと思われますが、そうは問屋が卸さない。

各軍種の役割や思想・伝統といったものもありますし、何より、ポストと権限・発言力、それに紐づいた予算の獲得競争という対立軸があります。

こればっかりは、官僚制の、否、あらゆる「組織」の宿業ですね。

米軍では、1947年に米空軍が米陸軍から独立した後、米軍内の航空戦力の所属・任務などを巡っての対立があり、これを議論する会議が開かれ、1948年に「キーウェスト合意」が締結され、現在の米軍における航空戦力の「縄張り」が確定しました※2

このような縄張り争いは、きっと、スーパーX配備でも繰り広げられたのではないか?と妄想を逞しくしてみましょう。

陸海空三幕の鍔迫り合い

陸海空の各「参謀本部」にあたるのが、各「幕僚監部」(幕)です。

おそらく、

  • 陸幕「スーパーXは、垂直離着陸かつ低速であり回転(ヘリコプ)(ター)機の延長である。」
  • 空幕「スーパーXは、明らかに航空機であり、航空自衛隊が運用するのが当然。」

これに指を加えているしかないのが海幕でしょうが、そこは、牽強付会

海幕「そ、空飛ぶ艦船・・・」

ちょっと苦しいですかね

ところで、蚊帳の外だった海幕ですが、次作だとチャンスが巡ってきます。

「ゴジラVS.ビオランテ」では、「スーパーX2」は、海も潜れます!これで、「空飛ぶ艦船」理論も不可能ではなくなりました。

ともかく、スーパーXの配備に関して、陸幕と空幕が対立したであろうし、それに如何に決着が付いたか。

先述のSAM帰属問題では、統幕会議でも決着が着かずに、長官決裁で落着したそうです※3

スーパーXの場合は、近年のイージス・アショアの問題が参考になるやもしれません。

中止となった陸上配備型のイージスシステムである「イージス・アショア」は、航空自衛隊ではなく陸上自衛隊の運用の方向でした。

アショアの配備は、任務増大中の海自の負担軽減の側面がありましたが、空自も人員はかつ(・・)かつ(・・)です。

そこで、一番の大所帯の陸自にお鉢が回ってきたとも言えます。

(但し、陸自も編成定数を充足したことはありません。そもそも部隊数が過剰で整理しないで充足率とか言われても

スーパーXも、縄張り争い以前に、三軍の中で、一番の大所帯である陸自故に担任されたというのが、オチなのかもしれません。

スーパーXは統合部隊か?

次に注目したいのが、スーパーXの乗員です。

オレンジ色の飛行服はいいとして、クレジットでは、秋山機長を「空幕幹部」と表記しています。

なんと、スーパーXは陸上自衛隊の機体でありながら、航空自衛官が運用するという変則運用な兵器だったのです。

ここから想像を逞しくすると、スーパーXは「統合部隊」として運用されていたのかもしれません。

ゴジラ84公開当時は、現在の統幕長(及び統合幕僚監部)よりも統幕議長(及び統合幕僚会議・同事務局)の権限は弱いもので、制服組最高位ではあっても、三軍の調整機関かつ合議体でした。

但し、2つ以上の自衛隊から編成された「統合部隊」への指揮命令は可能で、スーパーXは、この統合部隊形式の可能性があります(ホントかいな)。

ちなみに、現在だと、統合幕僚長の権限は米軍統合参謀本部議長に倣って、大幅に強化されています。

SDIが完成した世界線

スーパーXに関して、忘れてはならないのが、その動力源が核融合炉(!)だという点でしょう。

劇中、三田村首相が米ソの特使相手に、非核三原則の意義を語っていたのが信じられなくなる展開ですね。

この辺のカラクリを解く鍵は、ビーム兵器にあるかもしれません。

劇中、スーパーXは通常兵器の他に、ビーム兵器も装備しています。また、地上からは、ハイパー・レーザービーム車がゴジラを攻撃していました。

80年代でビーム兵器といえば、これはもう、米国のSDI(戦略防衛構想)、いわゆる「スターウォーズ計画」が、実現・成功した世界線であるとしか考えられません。

きっとあらゆる技術的困難はナンシー・レーガンの占星術によって克服されたのでしょう。

スーパーXもレーザービーム車も、SDIのお陰で、否、むしろ、西側の一員としての日本が、そのシステムの一端を担った上で配備できた代物だったのかもしれません。

ちなみに、新宿でゴジラ誘導作戦を展開する「ハイパー・レーザービーム車」は「陸上自衛隊第一師団第一普通科連隊特車八十八部隊(練馬特科)」所属という設定だそうです※4

首都圏を防衛警備区とする第1師団所属なのはいいとして、第1普通科連隊というのは無理があります(練馬特科?)。

どうみても、特科か高射特科の範疇でしょう。普通科であの装備は職種的にも整備的にも困難ではないでしょうか。第1特科連隊(当時)か第1高射特科大隊の装備でしょうし、方面隊か長官直轄部隊でも違和感はありません。

あと、陸自に「部隊」という単位はないので(警察や消防にはあります)、「八十八部隊」もよくわかりませんし、「練馬特科」も謎です。練馬駐屯地は結構手狭なので・・・(せめて朝霞駐屯地)。

【脚注】

※1.兵頭二十八『日本の防衛力再考』銀河出版、1995年、37頁。

※2.源田孝『アメリカ空軍の歴史と戦略』芙蓉書房出版、2008年、128頁。

※3.廣瀬克哉『官僚と軍人』岩波書店、1989年、74頁。

※4.『ゴジラ大全集』講談社、1994年、196頁。

【参考文献】

防衛研究会・編『防衛庁・自衛隊(新版)』かや書房、1996年