ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの小説『インスマスの影』(インスマスを覆う影)を、舞台を現代日本に置き換えて、翻案したドラマです。
1992年、1時間の単発ドラマでした。
【あらすじ】
若手写真家の平田拓喜司(演:佐野史郎)は、旅行雑誌の入社面接の直前、都心の雑踏の中、まるで魚のような異相の男と出会う。
面接で話題に上った写真家・藤宮伊衛門のことが気になり、帰り路、書店で彼の写真集を手に取ると、その一枚に、雑踏で出会った異相の男が映っていた。その一枚には「蔭洲升の漁師たち」というタイトルが付けられていた。
何かに引き寄せられるかのように、平田は、取材がてら、時代に忘れられたような漁村「蔭洲升」へと向かう・・・。
オリジナルのオマージュ満載
『インスマスの影』といえば、クトゥルフ神話の諸作品の中でも。特に評価の高い傑作です。
オリジナルの雰囲気や設定を上手く、現代日本に置き換えています。
舞台の蔭洲升は勿論、平田の降りる駅は「赤牟(あかむ)」、駅名票には前後の駅が「壇宇市」「王港」。
クトゥルフ神話ファンには言う間でもなく
- 赤牟(あかむ)→アーカム
- 壇宇市(だうんいち)→ダンウィッチ
- 王港(おうこう?)→キングスポート
蔭洲升で信仰されている謎の宗教も、信仰の対象が「だごん様」(=ダゴン)など、オリジナル作品のテイストを存分に生かしています。
漂う「生臭さ」
全体の雰囲気としては、「世にも奇妙な物語」を想像してもらえれば良いでしょう。クトゥルフ神話未読の方でも十分楽しめる構成になっています。
蔭洲升の町は、滑っとした「生臭い」空気を纏っていて、その気味悪さがよく出ています。
無口な住人、特に定食屋のシーンは、他の客たちの咀嚼音の不快感、出された煮付け定食の・・・。
あとは、お約束の「インスマス面」。これはド直球でしたね。
オリジナルにあった脱出行の要素はそれほど強くはありませんが、主人公の平田の運命が終盤に向かって上手くまとめらています。
ちなみに、本作は1992年放送、その同年にドラマ「ずっとあなたがすきだった」で、佐野史郎は、いわゆる「冬彦さんブーム」の渦中でした。
冬彦さん的な「怪演」を期待してしまいそうですが、本作の平田青年は、飄々とした、ごく普通の青年として演じられています。