ジャッカルの日~まるで実話?ド・ゴールという巨人故に成立した映画~

映画「ジャッカルの日」

【監督:フレッド・ジンネマン、1973年、英仏、143分】

「要人暗殺」映画の金字塔!ポリティカルスリラーの傑作のご紹介です。

原作はフレデリック・フォーサイス。

あらすじ

1960年代、植民地アルジェリアの独立を認めたシャルル・ド・ゴール大統領に対して、これを祖国への裏切りとした軍人たちによる反政府組織「秘密軍事組織(OAS)」は、度重なるテロ・暗殺作戦を実行するが、失敗に終わり、フランス当局に壊滅寸前に追い詰められる。

OASは、最後の手段にプロの暗殺者コードネーム「ジャッカル」を雇い、ド・ゴール暗殺を依頼する。

しかし、フランス情報部に計画は察知されてしまい、かくして、ジャッカルとフランス官憲の息詰まる攻防の火蓋が切って落とさる!

Sniper

暗殺に値する個人とは

かつて、ヘーゲルは、馬上のナポレオンを目撃して、「見よ。世界精神が行く」と言ったそうですが、基本的に政治家・権力者というのは、その社会・歴史状況の要請から現れるので、突出した人物というのは現れにくいと考えています。

Napoleon

突出した、という表現でなければ、「替えが利かない」人物。

多くの場合、替えが利く、というか、その人である必然がない。

SF系や歴史の議論で、「ヒトラーがもし途中で死んでいたら?」みたいな話で、よく言われる歴史家の答えは、「誰か別の人間が出てきただけ」だそうです。

それでも、なお歴史の表舞台に綺羅星?のように出現するキャラクターを「カリスマ」と呼んだりするのですが、シャルル・ド・ゴールというのは、フランス現代史におけるまさにそれでした。

そういう人物は、真の意味での歴史における「個人」と表現できます。

歴史を動かす個人。

歴史の流れを変えられる個人。

ただ単に、「フランス第五共和国大統領」という職位ではなく、その職にあるのがド・ゴールという個人である事が重要。

他のフランス大統領や架空のフランス大統領では、この映画の魅力は半減してしまうでしょう。

そんな歴史的個人である実在の人物ド・ゴール暗殺を映画にしてしまうのだから、その緊張感たるや、言わずもがな。

歴史が変わってしまうのだから。

de Gaulle and Churchill

こういったカリスマ、歴史的個人が現れ難いのが我が日本。

個人なき社会とは、よく言ったもんです。

まあ、もしかすると、日本でも、暗殺によって歴史が大きく変わる人物は1人だけいるかもしれないのですが・・・。

プロVSプロ

この作品は、プロ同士の戦いを丁寧に、ドキュメンタリーのように描いているところが魅力です。

一方は孤独なプロのスナイパー。

他方は、人間個人ではなくフランス政府という巨大な官僚機構です。

ジャッカルは技術と匿名性で、社会に紛れ込み、官僚機構はその巨大なシステムを総動員して、ジャッカルの匿名性を暴いていきます。

ジャッカルの魅力は、巨大な権力機構に、たった一人で孤高に挑んでいくという、一種のヒロイズムにあるのでしょう。

一方の好敵手たるパリ警視庁のルベル警視は、有能な刑事かつ組織管理者として、ジャッカルを追い詰めます。

その実直な組織人の人柄がこれまた感情移入し易い。

作中、アクションサービスを使うのに嫌悪感を吐露するあたり、司法警察官としての実直さが出ています。

一方は、孤高のプロ、他方は組織のプロ。

policeman

ジャンダルムリと警察と

さてさて、本作を鑑賞するにあったて、一点、知っておいていただきたいのが、フランスの警察機構。

作中、ジャッカルを追うルベル警視は警察官ですが、フランスの地方部で、登場する官憲は警察官ではなく、ジャンダルムリという治安憲兵で、警察とは別組織(共に内務大臣の指揮下にはある)。

憲兵には、大別して2種類あって、ひとつは、いわゆるMP(ミリタリーポリス)、野戦憲兵として、軍隊内の秩序維持にあたる兵科(軍隊内警察)。

日本人には占領中の記憶や記録があるので、占領軍の憲兵はイメージつきやすいですね。

白いヘルメットに、白い腕章に「MP」と書かれている。

その権限は基本的に軍隊内に限られる(犯罪捜査、交通統制、高官警護、捕虜管理etc.)。日本の自衛隊も同じです(警務隊という)。

対して、本作のジャンダルムリ(治安憲兵、警察軍)は、軍の一兵科ではありますが、平時は内務大臣の監督を受け、都市部以外の地方、つまり文民警察の担当区域外の司法警察活動を担います(県憲兵隊など)。

これは、なにも、フランス特有のものではなく、イタリア(カラビニエリ)、スペイン、スイスなど、数多くの国で見られます(旧日本軍憲兵もこちら)。

military police

そういえば、ジャン・レノ主演のサスペンス・スリラー映画『クリムゾン・リバー』にも、猟奇殺人の捜査に派遣されてきたパリ警視庁の刑事(演:ジャン・レノ)に、地元の女性が「私は刑事より憲兵が好きだわ」という嫌味を言うシーンがありますが、これは、まさに警察とジャンダルムリのことですね。

また、『レ・ミゼラブル』で、司教館から銀食器を盗んだジャン・ヴァルジャンを翌朝連行してくるのも憲兵ですね。

フランス映画を見る時のちょっとした参考に。

最後に・・・

この作品の残念なところは、全編英語なのです・・・。

フランス語で見たかった・・・。