大ヒットかつ傑作の誉れ高い映画「シン・ゴジラ」。
その成功の背景には、そこでの日本政府、自衛隊といった「政治」の描き方があります。
そういった面で先駆的な作品として、ゴジラシリーズから「ゴジラ(1984年版)」と「ガメラ2 レギオン襲来」の2作品を取り上げ、これらの作品の失敗とシン・ゴジラの成功の差とはなんだったのかを、全3回にわたって考察したいと思います。
あらすじ「ゴジラ(84)」
大惨事となったゴジラ東京上陸から30年後。
伊豆諸島近海での異常な遭難事故をきっかけに、政府はゴジラ再出現の可能性を認めるが、パニックの回避のため、厳重な報道管制を敷く。
しかし、ソ連原潜がゴジラに撃沈されたことによる米ソの軍事的緊張を回避するため、止むを得ず、発表に踏み切る。
直後、静岡県の原発にゴジラが上陸、原発を破壊し、海へ去っていく。
ゴジラの首都圏上陸に備え自衛隊を動員する日本政府に、米ソ両国はゴジラに対して戦術核兵器の使用を打診してくる・・・。
1984年の黙示録の怪物(アポカリプス・ビースト)
「ゴジラ」1984年版(以下、「ゴジラ84」)は、1984年というジョージ・オーウェルの『1984年』に歴史が追いついた記念すべき(?)年に公開されました。
ゴジラ第1作以降のゴジラシリーズを一度白紙(なかったこと)にして、30年ぶりに復活したゴジラの日本再上陸を描く意欲作です。
なんですかね、子供向けの怪獣プロレスになっちゃってたゴジラシリーズをいったんチャラにして、大人向けのパニック映画にしようとは、その心意気や良し!
1984年の記念(呪われた)年に、まさに、漆黒のモンスター「黙示録の怪物」ゴジラが、メガロポリスTOKYOを襲う!
で、大人向けにリアリティーを追求しようとすると、当然「政治」を描くわけになります。
この作品、主人公は三人いると思います。
一人は、若き新聞記者、もう一人は30年前のゴジラ襲撃で両親を失った生物学者(演:夏木陽介)、で、三人目は、内閣総理大臣の三田村清輝。
この、三田村首相を演じるのは名優小林桂樹!
前者2人のパートと、三田村首相を中心とした政治パートの二重構造で物語は進行します。
三田村首相の苦悩
とにかくこの三田村首相が格好良すぎる!渋い!渋すぎる!
その隣にいつも控える側近の武上内閣官房長官(演:内藤武敏)が、またいい味出している!
物語中盤、ゴジラに対して、米ソ両国の特使が足並み揃えて、戦術核兵器の使用を打診するため、来日。
三田村に詰め寄ります。三田村は非核三原則を盾に拒否。
納得しない両国に対して、三田村は、米大統領とソ連書記長へホットラインでの説得を試みます(ホットラインの場面自体はありません)。
ホットラインを終え、執務室に戻った三田村に武上が問います。
「総理、米ソ両首脳にはどのように話されましたか?」
「もし、あなた方の国アメリカとソ連にゴジラが現れたら、その時あなた方は、首都ワシントンやモスクワで、躊躇わずに核兵器を使用する勇気がありますか、と・・・」
かっけええ!ホワイトハウスとクレムリン相手にここまで言えるか!
日本映画三大名総理大臣を選ぶなら、必ず小林桂樹演じる三田村首相が入ります!
(あとは、「日本沈没」(1973年)の丹波哲郎演じる山本首相!三人目は・・・)。
三田村首相ばかりベタ褒めしてもアレなんで、箇条書きで他にも挙げておきます。
・制服組のトップとして統幕議長がちゃんと出ている(制服組らしく控えめで、動じないところがいい。)
・ゴジラへの航空攻撃がF1支援戦闘機で、ちゃんと支援戦闘機(対地対艦攻撃)と要撃戦闘機(防空)の区別がついている。
・ゴジラの存在秘匿を内閣調査室が担当!室長カッコイイ!
・最後の決戦が新宿の摩天楼なのがいい。まさに、世紀末的風景!黙示録の怪物とスーパーXの死闘(おっと、空飛ぶ電気炊飯器て悪口はそこまでだ)。
・ソ連大使館地下のレーニンの肖像画はいい!
リアルの政府ではない、理想の政府
なんか、こう書いていると、手放しで絶賛しているようですが、結論から言うと、本作は失敗しています。
それはリアリティの不完全性です。
確かに、ゴジラという30年ぶりの国難に対して、日本政府の戦いを描いているのですが、その政府の姿が、あまりに現実の日本政府と乖離してしまっています。
大きな特徴は、官僚の不在です。
巨大な官僚機構が現代の行政国家の特徴です(それに付随する目も眩む法体系)。
しかし、永田町(?)地下のゴジラ非常対策本部の風景を御覧なさい。
閣僚以外に居並ぶのは、自衛隊の制服組幕僚と通信隊員ばかり。
各省庁の官僚はどうした?
いやいや、あそこが防衛庁の中央指揮所だったらわかるんです。
しかし、おそらく官邸の地下の指揮所(80年代には実在していないはず)で、官僚抜きって・・・。
高度に専門分化された現代の行政システムは各省の分業で成り立っていいるのですから・・・。
それなのに、米ソ核使用の打診直後の会議(閣議?)では、閣僚が、専門家ばりに専門知識を披露!
それって、各省の事務次官や局長の仕事じゃね・・・。
なのに、この会議には、統幕議長どころか三軍の幕僚長まで出席(!)。
いやいや、80年代ですよ・・・、社会党元気ですよ。
制服組が官邸に来るのすらハードルが高い。
それを防衛事務次官ら背広組もいないのに・・・。
この作品が見ている日本政府は、「理想」の日本政府でしかないのです。
官僚のサポートを受けない閣僚たち。
有事にはしっかり政府を支えられる制服組。
そして、米ソにも断固として物言える理知的な首相。
でも、そんな日本政府は存在しないんです。
このリアリティの不徹底さが、この作品の評価が振るわない一つの原因ではないでしょうか。
以下、本作のツッコミどころを箇条書きで。
- スーパーXの動力が原子炉て・・・。それこそ米ソが黙ってない。
- 東京港に並んだ第32連隊戦闘団(?)、並ぶなよ・・・。そりゃ焼かれるよ。なんだよ、あのミサイル搭載トラックは…(呆)。
- 宇宙空間に対地攻撃衛星て・・・。
- その発射装置が東京港のソ連貨物船て・・・
- ビームレーザー兵器て、あの世界はSDIが成功した世界線か?
- ぶっちゃけ、恋愛パートはいらなくね?
ゴジラシリーズでの唯一の挑戦と挫折
本作は「惜しい」の一言に尽きると思います。
真正面から「政治」を扱おうとして、扱いきれなかった。
部分部分に光るもの(特に名優小林桂樹の熱演)があり、勿体ないことをした。
これ以後のゴジラシリーズは、「政治」的リアリティを捨てて(やや次作のvsビオランテに残滓があるものの)、その再挑戦と成功は「シン・ゴジラ」を待たなければなりません。
一方で、90年代に、怪獣映画で「政治」を扱おうとする意欲作が現れる。
ゴジラではなく、ガメラだ。
【続きはこちら】
→シン・ゴジラの考察~怪獣映画の「政治」の描き方~連載② 【「ガメラ2 レギオン襲来」の誤算】
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