「「立派な警官」にもいろいろある。誰に好かれるかによってな。」
オノ・ナツメ『COPPERS①』講談社、2008年、85頁。
タイトルは「警察官」を意味するスラング(警察官に対して使わないように!)。
ニューヨーク市のブロンクスにあるNYPD(ニューヨーク市警察)の51分署が舞台の群像劇。。
まるで海外ドラマを見ているような気分にさせてくれる作品です。
警官だって人間です
派手なアクションも殺人事件も起こりませんが、逆に、日々、現場の制服警官が遭遇・直面する事件や騒動、苦悩をよく描いています。
- 気難しい顔の寡黙な署長代理。
- 内気で警官には向いて無さそうな内勤の巡査。
- 生真面目だが不器用な女性巡査。
- 酸いも甘いも知りつくしたような中年の万年巡査。
- 上昇志向の強い情熱的な新人巡査。
様々な警察官が織りなす等身大の人間模様。
スタイリッシュな画風も相俟って、大人向けの漫画になっています。
未完?なのが残念(既刊2巻)。
「分署」て何?
「分署」という響き、語感が、往年の国内外の警察ドラマを思い起こさせて、それだけで郷愁を誘います(87分署シリーズとか)。
なにか、こじんまりして、少人数で、あぶれ者だが切れ者の刑事・警官たちがいる、辺鄙な孤立(孤高)の、梁山泊みたいな、男心を擽るようなそんなイメージがありませんか?
ジョン・カーペンターの「要塞警察」なんかもイメージに合致しそうです。
しかし、要するに、これは日本の「警察署」です。
なので、「分署」の上に「署」(本署)があるわけではなく、「分署」 (Precinct)の上は「管区」であり、その上は「市警本部警邏局」です。夢が無いなぁ・・・。
日本にもある「分署」
しかし、しかし、なんと日本には「分署」があるんです!
そんな男のロマンをくすぐる分署の所在地は、神奈川県東京都町田市。
その名も「忠生地区交番」。
・・・交番じゃん・・・。
いやいや、ちょっと待ってください。この忠生地区交番は、確かに警視庁町田警察署に属する交番なんですが、そんじょそこらの交番とは訳が違う。
50名を超える警察官が配置され、庁舎も2階建ての大規模なもの。実質的に「小さな警察署」として機能しており、交番所長も特別に警視が充てられている、日本最大の交番だそうです※1。
通常の交番と警察署の間に、このような大規模交番(幹部交番、警部交番、地区交番etc.)を設ける事例は全国の警察に見られ、言うなれば「分署」ということになります。
(忠生地区交番はその中でも「分署」の名に、特に相応しいですが)
コップランドとセルピコ
ニューヨーク市警といえば、かつては、腐敗の代名詞みたいな時代もありましたね。
日本の警察制度とは根本から違う米国の警察とその腐敗を描いたのが、映画「コップランド」です。
ニューヨーク市警の警官たち(警官マフィア)とニュージャージー州の群保安官の死闘を描いた作品です。日本人には想像できない世界ですね。
さらには、社会派の巨匠、シドニー・ルメットが、実話をもとに、警察内部の腐敗と戦う刑事の孤独な戦いを描いた「セルピコ」も外せません。
それはさておき、上記2作品のような、20世紀の「腐敗の極み」から立ち直ったNYPDの、警官たちの日常が描かれているのが『COPPERS』です。
【脚注】
※1.「J POLICE」vol.6、イカロス出版、2013年、42-43頁。