映画「スノーデン」(オリバー・ストーン監督)~恐るべし、アメリカ帝国~

  • 2020年2月10日
  • 2020年11月14日
  • 映画/TV

本作は「JFK」「プラトーン」「ブッシュ」など、社会派の映画監督として知られるオリバー・ストーン監督の映画です。

NSA(米国家安全保障局)の元職員スノーデンによる告発を描いたノンフィクション映画です。

一言でいうと、“恐るべし、アメリカ帝国”。

CIA、NSAで勤務していたスノーデンは、2013年に、米国政府のネット空間での諜報活動を暴露。

グーグル並みの検索エンジンは、公開のみならず、非公開のネット上の情報をも検索可能。

例え、電源を切っていても、世界中、誰のパソコンも起動させ、盗撮、盗聴が可能。

こんな暴露をしてしまって、スノーデンは大丈夫なのか?

・・・大丈夫な訳はなく、現在ロシアに亡命中。

そして、日本人にとって、衝撃的なのは、中盤のここでしょう。

日本の通信システムを乗っ取った後は、物的なインフラも乗っ取りました。

密かにプログラムを忍ばせたんです。送電網やダム、病院にも・・・。

もし日本が同盟国で無くなった日には、彼らは終わり。

マルウエアは日本だけではありませんでした。


本編より

日本が米国と敵対した時に、大規模かつ致命的なサイバー攻撃が可能な“トロイの木馬”をネットワークに忍ばせている訳です。

これを日本に限らず、他の同盟・友好国にも仕掛けている。

併せて、友好国の元首、政治家等に対しての盗聴なども言及されています。

「え?友好国なのにこれは酷い!」

という反応が多いように思えます。

しかし、私は、「ざんとう」、つまり“残念ながら当然”という感想です。

そりゃ、可能ならやっているよね。驚くにはあたらない。

国家の敵は・・・

本質的に「国家」にとって他の全ての「国家」は「敵」でしかありません。

これは近代国家云々というより、「政治的共同体」が「政治」的である故の宿命です。

国家に永遠の敵もいない

永遠の友もいない

永遠なのは国利だけである。


ヘンリー・パーマストン

どんな友好関係でも、敵対関係でも、それは、国家が国家理性によって、「利益」を考えて判断している仮初めのものでしかありません。

日本人は「日米同盟」に一種、ナイーブな感情を抱いているところがありますが、それは幻想に過ぎません。

例えば、米国にとっての仮想敵国はどこか?という質問があったとして、どう答えますか?

中国?北朝鮮?イラン?

間違いではありませんが、足りないんです。

答えは「アメリカ以外の全国家」です。

いつも仲良しイギリスも、お隣のカナダも、バチカンも。

主義主張も東西も問わず、他の国家は全て潜在的には敵なんです。

言うまでもなく日本も。

もちろん、イランや北朝鮮などの敵対国が上位に来ることは間違いありませんが。

米軍では、作戦計画(OPLAN)が策定されています。

有名なものに、対北朝鮮戦の「作戦計画5027」があります。

しかし、この作戦計画には、他のナンバーも多数あり、すべて明らかになっているわけではありません。そこには、対日作戦計画も存在していると言われています。

政治闘争における優位性

もうひとつ。この映画を見ていて思うのは、政治「闘争」における、全体主義国家の民主主義国への優位性です。

スノーデンが、この監視網を告発したことで、一大スキャンダルとなったのは、米国が民主主義国であったからに他なりません。

即ち、もし、これが、ロシアや中国なら特段、問題にはならなかったでしょう(報道管制が敷かれ、関係者は暗殺・処刑されて終わり)。

全体主義国家は、法や世論、自由などを一切顧慮することなく、政治闘争を戦えるという優位性があるのです。

これが米国をはじめ、民主主義諸国では、自由権や合法性、世論、議会など顧慮し、クリアすべき課題が山積します。

それだけ「出遅れ」るのです(ハイテク技術の差異は一先ず置いておいて)。

“不利”な戦いを、国際政治の場で強いられることは、民主主義国の宿命です。

民主主義・法の支配、自由の観点からの告発者であるスノーデンが、“有利”な立場にある全体主義的なロシアに、「亡命」しているのは、一種の皮肉と言えるかもしれません。